研究課題
極超音速機の機体/推進統合制御技術の構築と推進風洞実験及び極超音速飛行実験での技術実証に向け、以下の通り研究を進めた。(1) 推進風洞実験による機体/推進干渉の調査と飛行実験に向けた機能確認:安全確実な実験実施に向け、打ち上げ斜角を実績のある77度に変更した。それに基づき、翼面積を大きくするなど、機体形状の見直しを行なった。LSI法による機体設計を実施し、ロケットへの搭載、内部機器の収容、空力性能、飛行軌道に対する要求を全て満足する解を得た。機体は、風洞実験と数値解析によって評価された。搭載用エンジンを試作し、全温度900 Kの環境下で水素ラムジェット燃焼実験を実施し、基本特性と耐久性を確認した。(2) 飛行実験による極超音速統合制御技術の確立:斜角の変更による飛行軌道の見直しを行った。また、打上げ荷重と引き起こし荷重の両方に耐える構造様式を構造最適化解析で導出した。空力加熱解析と熱構造解析により、金属主構造まわりのTPS配置を検討し、飛行実験中に機体内部温度が65 ℃以下となることを確認した。その他、計測、制御を統合するフライトコンピュータの設計、製作、搭載機器の選定及び計測系、電装系システムの設計、アンテナ、分離機構等の検討に着手した。(3) 学術的基盤技術研究:ロバスト性を持つ複合領域最適化研究に着手し、幅広い飛行条件に対応した極超音速フライトベッドの解析環境を構築した。数値解析により、機体/推進統合形態での空力特性を調査し、エンジン単体との違いやインテークの迎角特性を取得した。空力加熱を含めた熱構造CFD連成コードを構築し、実験機設計に適用した。モデル燃焼器の高エンタルピー風洞実験を実施し、燃焼器内圧力および火炎中の水蒸気から放出される近赤外発光計測結果に基づき、噴射器後流における保炎挙動の観察と機械学習手法を用いた燃焼不安定性に着目した解析に着手した。
3: やや遅れている
研究を進めていく中で、打ち上げ斜角の変更など、色々と課題は出てきたが、基本的には想定内の範囲であり、解決している。新型コロナウイルスによる影響で、委託業者の業務時間短縮による設計図面作成の納期遅れが発生し、当初計画していた実験機の部分試作及びエンジンの製作を年度内に完了することができず、次年度に持ち越した(予算繰越が発生)が、次年度完了した。繰越予算を単純なスケジュールの延長であるため、計画自体へ影響は小さい。次年度のスケジュールの中で遅れを吸収する予定である。
今後の研究(2021年度以降)としては、引き続き、推進風洞実験、飛行実験のための準備および学術的基盤技術の構築を実施する。具体的な項目を以下に示す。(1) 推進風洞実験による機体/推進干渉の調査と飛行実験に向けた機能確認:2021年度までに、プロトタイプの機体とエンジンの製作を完了し、推進風洞実験で用いる実験機を完成させる。2022年度中に、Mach 5の推進風洞実験により、機体/推進統合形態での性能(機体にかかる空力特性、操舵翼特性、エンジン性能、遮熱特性)及び全システムの機能確認を行う。推進風洞グループとのインターフェイス調整を密に行い、できるだけ設計の後戻りの内容に研究を推進していく。(2) 飛行実験による極超音速統合制御技術の確立:これまでの研究から、飛行実験における機体の分散推定が大きな課題として残されている。実験、解析から得られたデータを用いて、空力性能推算の高精度化と故障モード解析を実施し、飛行シミュレーション、落下分散解析の高度化を図る。S520観測ロケット側と調整し、安全性に関する詳細検討実施する。(3) 学術的基盤技術研究:基盤研究については、計画通りに進んでいる。複合領域最適化研究に関しては、極超音速フライトテストベッドとしての実現性の高いロバストな飛行方式をシミュレーションによって検討する。燃焼器の研究に関しては、高エンタルピー風洞を使用したラム燃焼器の燃焼実験を継続して実施し、動的モード分析、潜在変数挙動解析、低次元化手法を用いた不安定燃焼の特徴抽出を実施する。極超音速機の熱構造解析の研究に関しては、エンジン内部、機体内部の熱伝導、熱伝達を含めた解析へと進化させる。その他、研究会やシンポジウムでの企画セッションを開催し、内部連携と外部への情報発信を強める。
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TRANSACTIONS OF THE JAPAN SOCIETY FOR AERONAUTICAL AND SPACE SCIENCES, AEROSPACE TECHNOLOGY JAPAN
巻: 19 ページ: 135~143
10.2322/tastj.19.135