研究課題
本年度は、昨年度開発した局所磁場の影響を考慮した原子分解能DPC STEM理論計算手法、原子レベルの電場・磁場の分離を行うための画像フィルタリング手法、超高感度DPC STEM観察のための画像積算・統計解析手法等を駆使して、室温で反強磁性体であるヘマタイト結晶内部のFe原子の原子磁場観察に挑戦した。その結果、(0001)Fe原子層における反強磁性構造に対応する互い違いに変化する原子磁場を実験的に実空間観察することに成功した。更に、ヘマタイト結晶を液体窒素冷却ホルダーで冷却した状態において同様の原子分解能磁場観察に挑戦し、約260K以下において発現するモーリン転移に伴う磁場方向の変化を実空間観察することにも成功した。これらの実験結果と局所磁場の影響を考慮した像シミュレーション結果とを定量的に比較し、極めて良い一致を示すことを明らかにした。これら一連の成果を英国科学誌Natureに報告し、国内外において極めて高い評価を得た。また、アウトリーチ活動のためこれらの成果をプレスリリースした結果、10以上の新聞やネット記事で報道された。また、NdFeB磁石における高分解能無磁場DPC STEM磁区構造観察を行い、結晶粒内における磁壁幅が局所的な組成変化と強い相関性を示すことを見出した。また、磁気スキルミオンと表面欠陥との強い相互作用を明らかにし、それを用いてスキルミオンの核生成や構造、配列を自在に制御できることを実験的に示した。更に、TEM結像側に高次収差補正装置を新規導入し、対物レンズの収差を補正するとともに、最適なTEM光学系構築を目指した光軸調整等の開発を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、昨年度開発したDPC STEMによる原子磁場定量解析手法を用いて、反強磁性体であるヘマタイト結晶の原子磁場の実空間観察に挑戦した。その結果, Fe原子の反強磁性構造と対応する原子磁場変化を実験的に観察することに成功し、その成果をNature誌に報告し世界的に高い評価を得た。そのため、当初計画以上に進展していると判断した。
今後は、無磁場環境における原子分解能TEM法やローレンツTEM法の実装を行い、磁気ダイナミクスその場観察手法の開発や磁性材料界面応用研究等にも展開し、材料局所構造と磁気・磁区構造との相互作用メカニズムの本質的な解明を目指して研究を推進する。また、これまで解析が困難とされてきた鉄鋼材料の粒界原子構造解析も進める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 8件、 招待講演 17件) 備考 (1件)
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