研究課題/領域番号 |
20H05662
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
武田 淳 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (60202165)
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研究分担者 |
金島 圭佑 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 助教 (30804025)
金 有洙 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (50373296)
片山 郁文 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80432532)
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 上級研究員 (80586917)
吉田 昭二 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90447227)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | テラヘルツ / STM発光 / 近接場分光 / 中赤外パルス |
研究実績の概要 |
微細かつ超高速な時空間領域で物質の構造や機能を自在に操作することは、次世代ナノエレクトロニクスにとって最重要課題の1つである。本研究では、位相制御したテラヘルツ(THz)~中赤外(MIR)パルスと走査トンネル顕微鏡(STM)を巧みに組み合わせ、原子分解能とフェムト秒の時間分解能でトンネル電流及び発光を検出できる“極限時空間分光”システムを開拓し、この技術を駆使して機能性分子や生体系分子の発光機構、振動状態制御を実現することを目指している。本年度は、主に、(1)位相制御THz-STM発光分光システムの開発、(2)MIRパルスとSTMを組み合わせたMIR-STMの開発、(3)STMを用いたグラフェン関連物質の電子状態観測を行った。 (1)においては、高繰り返しかつ高強度のファイバ-レーザーを導入し、強誘電体プリズムと回折格子を用いた パルス面傾斜法によって位相制御THz波を発生させた。位相制御THz波をSTM内部に導入し、トンネル接合部へ照射し、トンネル電子が誘起する局在プラズモンからの発光をSTM探針近傍に備え付けたレンズによって集光・検出した。これにより、はじめて、THz波が駆動するトンネル電子による発光検出に成功した。 (2)においては、光パラメトリックチャープパルス増幅(OPCPA)レーザーとGaSe非線形光学結晶を用いた中赤外発生系とSTMを組み合わせたMIR-STMを構築し、時間分解測定を行うことに成功した。また、中赤外近接場の形状を評価する手法を構築した。 (3)では、周期的に孔開き構造を持つグラフェンフォノニック結晶(G-PnC)において、微分コンダクタンス計測から孔周辺部と中央部で電子状態が異なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画にある(A)位相制御THz-STM発光分光システムの開発、(B)単一分子の発光寿命計測、(C)位相制御MIR-STMの開発のうち、(A)及び(C)については滞りなく行うことができた。(A)の開発においては、トンネル電子が誘起する局在プラズモンからの発光を指標にしてシステムを構築し分光システムの最適化を図ったが、その際通常のSTM発光とは異なる挙動を示す局在プラズモン発光を見出した。そのため当初計画を変更し、(B)の計測を行う前にまずはTHz誘起のトンネル電流が駆動する局在プラズモン発光の詳細を探索することにした。結果として、位相制御THz-STM発光分光システムを用いた最初の発光検出の成果を論文化し、大学よりプレスリリースすることができた。また(C)においても、単なるMIR-STM構築だけではなく、MIR近接場の評価手法の確立やシステムの再現性向上に繋がる問題点を洗い出すことができた。 更には、通常のSTMを用いてグラフェン関連物質の電子状態観測を行い、この種の物質群が当該研究で開発する極限時空間分光技術の格好の材料であることを見出した。 以上の点から、研究は、「おおむね順調に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は以下の研究を実施する。 2020年度に構築したTHz-STM発光分光ステムを用い、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)単分子を例にとり、単一発光ダイナミクス検出を行う。具体的には、基板選択により-1価に帯電したPTCDA分子からTHz波照射により電子を引き抜き励起状態を形成する。瞬間的に電子を引き抜くことで励起状態を形成し(t = 0)、t = a 秒後の発光強度を積算して発光寿命を評価することにより、世界初の単一分子レベルでの励起状態ダイナミクス計測を実現する。また、時間差をつけた位相制御ダブルTHzパルスをSTMに導入し、サブサイクルで分子への電荷注入を自在に操作して、一重項・三重項励起状態間の遷移やより高次な励起状態の形成を試みる。 2020年度OPCPAとGaSe非線形光学結晶を用いた中赤外発生系とSTMを組み合わせた中赤外STMを構築し、時間分解測定を行うことに初めて成功したが、中赤外パルス強度が十分ではないため安定かつ再現性の高い計測が難しかった。そのため2021年度はまず中赤外発生光学系を見直し大幅な改良を行う。その後改良されたシステムを用いて主に2次元半導体(2H-MoTe2、単MoS2など)を対象に光キャリアダイナミクスの計測を行うことで開発した装置の性能評価を行い、特に従来のTHz-STMの時間分解能を大きく凌駕する100fs以下の高い時間分解能を有することを実証する。 周期的に孔開き構造を持つグラフェンフォノニック結晶(G-PnC)や相変化材料などを例にとり、通常のSTMに加えTHz-STMによる電子状態計測を行う。G-PnCの孔周辺部を含む全域でトンネル分光を行い、電子デバイス特性を評価する。また、電場増強THz近接場により、相変化材料のナノスケール相変化特性を明らかにする。
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