研究課題/領域番号 |
20H05663
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
邑瀬 邦明 京都大学, 工学研究科, 教授 (30283633)
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研究分担者 |
中野 博昭 九州大学, 工学研究院, 教授 (70325504)
梅林 泰宏 新潟大学, 自然科学系, 教授 (90311836)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 電析 / 電気めっき / 濃厚電解液 / 深共晶溶媒 / 配位型イオン液体 / 溶液化学 / 金属錯体 / 金属組織 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1) 水和物融体を用いる電析・電気めっきの解析と高度化、(2) 塩化アルミニウム-グライム系 DES を用いる Al 電析の解析と高度化、(2) 超濃厚α-ヒドロキシ酸水溶液を用いる Cu2O 薄膜電析の解析と高度化、を主要課題としている。 本年度、(1) に関しては、α相とδ相の特異な混相として得られる電析 Cr 皮膜の組織解析をすすめた。用いる水和物融体に依存した、結晶粒の集合組織や、繊維型組織の成長挙動の違いを透過菊池線回折により明らかにした。また、金属 Pb 電析に関しては、最大 93.7 g kg-1 の Pb(II) 濃度に建浴できること、主たる溶存種が PbCl42- であること、添加剤が無くとも平滑な Pb 電析が可能であることなど、新しい Pb 電析浴としての可能性を見出した。Sn 電析に関しては Sn-Ag 合金析出を含めて電析条件と形態の関係を明らかにした。 (2) に関しては、グライム系 DES からの Al 電析において、電解液中の Al(III) 化学種の同定に焦点を絞り、理論計算と実験の両面から解析した。その結果、AlCl3 を含む一連の DES は、Al 電析の活性種と一般にいわれる Al2Cl7- 以外の溶存種が電析性の発現に関わっていることが明らかとなった。Li(I) 化学種を過剰に含むグライム系 DES におけるホッピング伝導など、濃厚電解液に特異な現象も見出した。 (3) では、濃厚な乳酸を含むアルカリ性環境で生じる2つの Cu(II) 錯体が還元反応性を支配し、Cu2O の配向性や半導体特性を決めている可能性を見出しつつある。一方、乳酸の光学異性は錯体生成に影響しないとわかった。また、既知の錯生成定数を活用した CuO/Cu2O 多層膜電析の設計など、本研究の主眼である錯体と電析物の関係性に着目した新たな試みも行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を立案する上での出発点となった3つの主要課題すべてについて、電解液の解析と電析物の評価の両面で進展があり、これまでに 10 件の原著論文を出版した。また、学会等での一般発表は、国際会議(オンライン)を含めて 20 件にのぼる。 超濃厚水溶液を用いる硬質3価クロムめっきについては、電解液(CaCl2 系と LiCl 系)の違いによる電析物の差異を明らかにし、電解液中の Cr(III) 化学種と対比するための基礎データを得ている。超濃厚水溶液を活用する他の金属(計6種)の電析研究を新たに始め、とくに鉛電析やスズ電析において、フッ素を含まない環境対応型の電析浴としての有望性を示すことができた。アノード酸化に超濃厚水溶液を適用するなど、当初の計画になかった研究展開もみられた。 塩化アルミニウムを含むグライム系 DES の解析においては、Al2Cl7- 種を有意に含むにもかかわらず Al 電析が起こらない系の存在を見出した。リチウム塩を含むグライム系の DES においては、平滑電析のための添加剤の発見や、イオン伝導機構の解明などを通して、今後、塩化アルミニウムを含む系との対比に使える知見を得た。 超濃厚乳酸浴からの Cu2O 電析については、アルカリ性の濃厚環境でのみ生じる2つの錯体種と、電析 Cu2O の組織や半導体物性に相関があることを見出しつつあり、これまで原因がわからないままであった電析組織の pH 依存性に対して一定の説明ができつつある。 なお、超濃厚水溶液(水和物融体)を活用した硬質3価クロムめっきに関しては、一般社団法人 表面技術協会から 2022 年度論文賞を受ける(2022年2月28日付け)など、客観的な評価も得ている。以上の理由により、「研究はおおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでいると判断されることから、当初の計画におおむね沿って研究をすすめる。研究出力を維持するため、京都大学と新潟大学においてそれぞれ雇用している特定有期雇用教員(特定助教)と博士研究員(特任助教)を 2022 年度も継続して雇用し、本研究課題へ重点的にあたらせる。京都大学では、2021 年度まで、研究代表者(邑瀬)に加えて深見一弘と北田 敦の2名の常勤教員が協力者として研究にあたってきたが、北田は 2022 年 4 月から東京大学へ異動した。本研究を推進する上では、今後も北田がもつ実験技術が必要なため、2022 年度からは北田を研究分担者に加えることにした。具体的な研究方針は以下の通りである。 水和物融体を用いた Cr 電析については、電解液中の Cr(III) 塩化物錯体の内訳について、より定量的な解明に着手する。電析 Cr の構造解析については、結晶相の方位分布や集合組織の解析を進め、素地への密着性をつかさどる歪みや残留応力、あるいは電析初期構造なども検討対象とする。他金属への展開もさらに進める。AlCl3 を含む DES 電解液の解析には、電位差滴定など新たな手法を取り入れる。より深く検討するため、第一原理分子動力学シミュレーションや反応の in situ インピーダンス測定も始める。超濃厚乳酸浴からの電析 Cu2O では、半導体特性のより精密な解析を進める。他の α-ヒドロキシカルボン酸を用いた濃厚浴についても錯体種を解析し、錯体種と Cu2O 膜の相関性が普遍的なものであるか、検証を始める。
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備考 |
・第11回イオン液体において学生(森 崇裕)が優秀ポスター賞を受賞 ・一般社団法人表面技術協会 2022年度論文賞を受賞(2022年2月28日付け)
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