研究課題
電子の磁石としての性質であるスピンの流れを制御することにより有用な電子デバイスを実現してきたスピントロニクスの分野に「情報流」の概念を導入し、ナノサイズの磁石とその複合系における情報熱力学の学理を構築することを目的として研究を開始した。R2年度は室温における磁気スキルミオンの熱運動に関する確認実験を行った。その解析から、スキルミオンが熱平衡状態において回転運動をしているように見えることを確認した。スキルミオン相互作用による情報の流れを移動エントロピーにより解析するプログラムを開発した。スキルミオンを用いた情報熱機関の例となるスキルミオン冷凍機についてその性能の理論予想を行った。その結果、実現可能な系では冷凍能力が低く、その効果の観測が困難であることを見出した。その一方でスキルミオンの熱運動にフィードバックをかけることにより情報をエネルギーに変換する素子の作製は原理的に可能であることを見出した。後者の素子を実装するために電圧印加によりスキルミオンの運動を制御する素子を作製した。しかし、スキルミオンは電極端に近づくことができず、年度内に作製した素子ではゲート動作は実現できなかった。スキルミオンをマイクロ波の導波路で検出する実験を行ったが検出できなかった。一方磁気光学効果による検出感度は高くより高速な測定が可能であることを見出した。また、磁気抵抗素子による検出のために、磁気抵抗素子の磁界検出感度および電気信号検出感度を向上させた。電気容量の変化としてスキルミオンを検出する素子を作製した。スキルミオンをp-bitとみなし計算を行う素子を作製した。素子を実時間で制御する装置を設計した。
2: おおむね順調に進展している
スキルミオンのダイナミクスについて理解が進みつつある。また、スキルミオンの熱運動を利用した情報熱機関によりできることと難しいことがどのようなものであるか理解が進んだ。いくつかの試作素子をつくり、スキルミオンの相互作用・検出・電圧制御の実験を行った。相互作用から移動エントロピーを計算する、スキルミオンを検出するために必要となる高感度の磁界、高周波信号検出素子の実現などで進展があった。
スキルミオン情報熱機関を作製するために電圧による制御のみでなく、スキルミオン-スキルミオン相互作用を用いたフィードバックについても検討を進める。前者の実現のためには電極を作ることにより発生するひずみの影響を避けるために極細電極の利用や厚い絶縁層の利用などの工夫を行う。後者のスキルミオン-スキルミオン相互作用を用いたフィードバックを用いると超低消費電力制御が可能となると考えられる。スキルミオン-スキルミオン相互作用を用いた情報フィードバックについては実験のみでなく、シミュレーションを用いた検討も並行して進める。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: 536_1-7
10.1038/s41467-020-20631-0
Journal of Applied Physics
巻: 129 ページ: 024503_1/7
10.1063/5.0013789