研究課題/領域番号 |
20H05668
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
片浦 弘道 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 招聘研究員 (30194757)
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研究分担者 |
田中 丈士 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (30415707)
平野 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90613547)
斎藤 毅 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (60371043)
桑原 有紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20635312)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 欠陥制御 / 構造分離 / 高移動度 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を欠陥密度の違いで分離する新技術を基盤として、構造が厳密に定義された欠陥の無い「完全構造SWCNT」を創出し、その応用展開を目指すことを目的としている。通常のSWCNT合成においては、触媒金属ナノ粒子が必須であり、それが試料中に残留して様々な特性低下を引き起こす。これまで、触媒除去は容易ではなかったが、早稲田大学の野田等が開発した新手法により、比較的容易に触媒をほぼ除去できるようになってきた。そこでその手法を高度に実現する新たな精製システムを構築し、さらに反応プロセスの改良を行うことで、SWCNT試料に極力欠陥を導入する事無く触媒を除去する手法を確立した。この手法は各種市販SWCNTに対応可能であり、直径の大小にも依存しない事を確認した。この精製技術の確立により、欠陥修復処理の前処理が終了した事になる。 前年度世界に先駆けて実現した金属型SWCNTの精密構造分離は、さらに高度化をすすめ、多種の単一構造SWCNTの分離を実現した。金属型SWCNTでは半導体型と異なり蛍光分析が行えないため、これまでは分光学的な構造同定が困難であった。そこで東北大の齋藤等が公開している金属型SWCNTの第一吸収帯分裂幅の構造依存性を利用し、溶媒効果の補正を行う事により、光吸収スペクトルから構造同定を行うための第一吸収帯分裂のファミリーパターンを作成した。このパターンと実験結果を照合する事により、得られた金属型単一構造SWCNTの光吸収スペクトルから構造同定が可能になり、全部で11種類の構造分離ができた事が明らかになった。得られたのは、カイラル指数(5,5)から(8,8)までの4種類のアームチェアー型と螺旋型であり、ジグザグ型は得られていない。金属型のジグザグ型は構造的に特に不安定である可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題発足時からの新型コロナの感染拡大により、ポスドク雇用困難や、各種装置の納期遅延や納期未定(購入不可)、出勤制限など、大きな影響があったが、研究代表者が中心になって実験を行う研究体制に変更し、入手困難な装置は自作するなどの対応により、逆境の中としては想像以上に進展し、前半で克服するべき大きな難題をほぼクリアすることができた。今後もこの体制を維持しつつ、広く共同研究を展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
触媒除去法が確立でき、SWCNTの構造分離技術も金属型まで大きく進展した事から、今後はメインの課題である欠陥修復に重点化する。欠陥修復は、当初計画していた通り、SWCNTに内包した分子を熱分解し、その際発生する炭素原子を用いた欠陥修復法を中心に検討するが、酸化グラフェンに対する化学気相成長法を利用した欠陥修復の様に、触媒が除去できた事により可能になった、外部から炭素源を供給する手法についても検討する。低欠陥分散技術に関しては、特注の大型機器の導入は困難が予想される事から、超小型の装置を新たに考案し、一部自作で対応する事により、速やかな研究の進展を目指す。 これまでの成果により、触媒を高度に除去した後に構造を分離したSWCNTが作製可能になったが、このような試料は実はこれまで実現されていない。トラップ準位の原因となる不純物粒子を除去した構造制御SWCNTは、欠陥修復まで進むまでもなく、電子材料として大幅な特性向上が期待できる。そこで、この材料を広く共同研究で展開し、用途開発について検討する。 新型コロナの世界的感染拡大の影響は今後もしばらく続くと考えられることから、これまで通りコロナ禍での研究体制を維持し、研究を推進する。
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