研究課題/領域番号 |
20H05670
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
小栗 克弥 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 部長 (10374068)
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研究分担者 |
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 特別研究員 (60649664)
加藤 景子 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (40455267)
日比野 浩樹 関西学院大学, 理工学部, 教授 (60393740)
石川 顕一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70344025)
関根 佳明 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 多元マテリアル創造科学研究部, 主任研究員 (70393783)
国橋 要司 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 主任研究員 (40728193)
田中 祐輔 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, フロンティア機能物性研究部, 研究員 (40787339)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | ペタヘルツエレクトロニクス / アト秒科学 / 光波駆動現象 / ファンデルワールス物質 / 時間依存密度行列法 |
研究実績の概要 |
本研究では、固体電子系の基本自由度と光波電界の相互作用ダイナミクスを明らかにし、”ペタヘルツ(PHz)スケール物性”を創出することを目的とし、(1)次世代単一アト秒分光プラットフォームの開発、(2)光波電界-固体電子系相互作用のPHzスケールダイナミクス計測、(3)光波電界駆動スピンダイナミクスによるPHzスケールスピントロニクスの開拓の3 課題を進めている。 初年度は、半年間の期間であったが、課題(2)において、遷移金属ダイカルコゲナイドの光励起過程最初期ダイナミクスの研究で進展があった。本研究では、バレー間散乱という主要な過程が光励起直後約30fs程度で起こることを明確に捉えたが、それだけではなく、光励起中にバンドギャップが過渡的にレッドシフトする現象や、散乱後のバレー内において散乱電子が超高速再分布する過程など、多様な電子系のふるまいを、エネルギー-波数-時間の次元で捉えることに成功した。これらの現象は、それぞれ時定数によって特徴付けられるもの、時間的にオーバーラップしているため、エネルギー-時間次元の計測手法で捉えることが難しい。高い時間分解能を保ちつつ、波数分解まで可能とする時間分解ARPES法の有効性を示しており、今後、本方法更なる時間分解能の向上することによって、PHzスケールでブリルアンゾーン全域を運動する電子系の挙動を明らかにすることが期待できる。 また、本年度は、PHzスケール光物性を計測する次世代の主力分光技術の開発に向けた主要装置の設計・導入など、来年度以降の弾込めとなる準備に注力した。特に、100WクラスのYb系高出力レーザでは例を見ない、パルス幅184 fs、最高パルスエネルギー1mJ@80kHz繰返しという単一アト秒パルス発生に向けた数サイクルパルス化を念頭に置いたレーザシステムの導入を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の各課題の進捗状況を以下にまとめ、その達成状況の自己評価を示す。 (1)1MHz級単一アト秒時間分解分光システムにおいて、ベースとなる100 kHz~数MHz繰返し、平均出力80 W、パルス幅180 fsのYb:KGW結晶高出力レーザを導入した。併せて、中赤外ポンプ光発生のため、2波長光パラメトリックアンプ(OPA)を導入し、差周波発生(DFG)による4~11μm数サイクルパルス発生システムを整え、100 kHz繰返し500 mWの5μmパルスの発生を確認し、概ね当初計画通りに進めた。 (2)PHzスケールダイナミクス計測実験では、既存システムである3kHz繰返しTi:sapphireレーザをベースにしたサブ5fs時間分解ARPESシステムにより、WSe2バルク結晶の光励起最初期緩和ダイナミクス計測を実施した。エネルギー分解能と時間分解能のトレードオフを考慮しながら適切に設定することによって、励起直後約30fsの時定数でK点から∑点のバレー間緩和が起こることを明らかにすると共に、バンド内における電子分布の緩和を捉えることに成功した。また、PHzスケール光物性を探る材料系として、2D縦型ヘテロ構造や、多層グラフェンの作製技術の研究を行い、h-BNやGaNといったワイドギャップ半導体材料の成長を進めた。これらのワイドギャップ材料は、より高い周波数での応答が見込まれることから重要な材料群である。これらの個別課題も概ね順調に推移している。 (3)アト秒時間分解MOKEの開発に向け、斜入射極端紫外光用ミラーによる高反射率転送ポンププローブ光学系と、サンプルに印加する500ガウス級電磁石機構を設計し、導入した。本課題では、密接に関連する円偏光高次高調波発生や、高次高調波屈折率分光の研究において論文発表まで進めるなど順調に進展しているが、実験系の構築が一部遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)次世代単一アト秒分光プラットフォームの開発においては、2021年度は、今年度導入したYb:KGW結晶高出力フェムト秒レーザの数サイクルパルス化を行い、高次高調波発生を確認する。パルス圧縮には、中空ファイバ圧縮とマルチプレート圧縮の2つの手法を比較・併用する。並行して、キャリアエンベロープ位相安定化中赤外ポンプ光波を用いた100 kHz級サブサイクル分光開発に向け、電気光学サンプリング法を用いた中赤外パルス電界波形計測システムを構築する。 (2)PHzスケールダイナミクスの研究では、本年度計測したWSe2において、光励起状態で見られた過渡的バンドギャップ変調現象を理論Gと連携して、シミュレーション・実験の両面から追求する。また、2021年度は、特異なバンド構造を発現するファンデルワールス物質積層構造サンプルへの拡張として、SiC大面積多層グラフェンの時間分解ARPES実験を実施する。ARPESによるバンド構造評価後、時間分解ARPPES計測を行い、光励起過程最初期ダイナミクスにおいて、単層グラフェンのディラック分散型バンドとの特徴的な違いを調べる。2022年度以降にかけては、時間分解ARPESによるPHz電界コヒーレント応答の計測に向けて、実験系の改造に着手する。 (3)PHzスケールスピントロニクスの研究では、2021年度は、高次高調波による時間分解偏光変調分光実験系を構築し、吸収分光配置によるプローブ光量、集光性能、エネルギー分解能などの基本性能を評価する。その後、プローブ光の単一アト秒パルス化を図る。また、2022年度以降にかけて、遷移金属サンプル(Fe及びNiを予定)において、MOKE信号検出を実施する。また、吸収分光配置での測定に困難が生じた場合、適宜反射分光配置を検討する。また、理論Gでは、時間依存密度行列法(TD-DM)法のスピン自由度への拡張を継続する。
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