研究課題/領域番号 |
20H05673
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 淳夫 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (30359690)
|
研究分担者 |
北田 敦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30636254)
竹中 規雄 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (00626525)
コ ソンジェ 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90910282)
西村 真一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 主任研究員 (00549264)
中井 浩巳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00243056)
大谷 実 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (50334040)
|
研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
|
キーワード | 液相マーデルングポテンシャル / デバイ・ヒュッケル理論 / 電極電位 / 静電相互作用 / 静電相互作用、アルカリイオン |
研究実績の概要 |
電極電位はあらゆる電気化学反応を規定する一般概念である。電極電位が電解液に依存することも古くから知られており、物理化学の教科書にも数十ページを割いて記載されている。しかし、その定量解釈については希薄系において静電相互作用を近似的に扱ったDebye-Huckel理論が存在するものの、多くの機能電解液の前提となる濃厚系に対しては適切なモデルが存在しない。昨年度までの研究で、電解液中のカチオンが感じる静電ポテンシャルを明示的に扱う方法として、固体化学分野の概念を応用した液相マーデルングポテンシャル,ELM を定義し、これによる高濃度領域における電極電位の定量解釈が可能なことを報告した。今年度は、Li系に対して実証されたELMによる電位シフトの定量解釈をNaとK系にも拡張することで、新概念の有効性に対する一般性検証を行った。その結果、アルカリ金属の濃厚化による電位シフトは、カチオンのルイス酸性 (Li+ > Na+ > K+) が強いほど大きく、γ = 1と仮定した理想的なNernst応答から大きく逸脱した。一方で、ELMから見積もった電位シフトの計算値 (ΔELM/F, F:ファラデー定数) はいずれのカチオン種においても実験値とよく一致した。従ってカチオン種によらず、電位シフトの本質的起源は、カチオンの配位子が、電子が酸素原子に局在化した溶媒から、分子全体に広く非局在化したアニオンに置換されることによるクーロンエネルギー損失であり、カチオンのルイス酸性が強く、カチオンと第1溶媒和圏の局在配位子間の相互作用が強いほど (Li+ > Na+ > K+)、溶媒からアニオンへの配位子置換に伴うクーロンエネルギー損失が大きくなり、顕著な電位シフトを表すと考えられる。以上より、多くの電気化学システムに適用される濃厚領域におけるELMによる電位変位の定量解釈が、Li+以外のカチオン種にも適用可能な一般性の高い概念であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、古典的なデバイヒュッケル理論を大きく逸脱する電位変位現象について、液相マーデルングポテンシャルによる定量解釈が、リチウムイオン系の限定的な電解液系において可能であることを実証した。今年度は、アルカリイオン種や塩・溶媒を多様化した電解液系に対して網羅的な実験・理論融合研究を行い、その一般性と普遍性を検証するに至った。これにより、デバイス全体を俯瞰した厳密な定量的エナジェティクスが適用されることとなる。このような洗練された電気化学システム設計の方法論は、経験的試行錯誤と現象論を前提とした既存の開発戦略とは明確に一線を画すため、ほぼ当初の計画通り、あるいはそれ以上の学術成果が得られていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
第一原理計算に基づいて、ボトムアップ的に各電解液に最適な力場構築を行い、MD計算に適宜適用すると同時に、イオンと周囲のファンデルワールス相互作用成分、および、電解液の局所構造変化に伴うエントロピーを追加考慮し、計算による現象再現性精度を極限まで高める。
|