• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実績報告書

動的不斉転写に基づく高度な不斉増幅を可能にする動的キラル高分子触媒の開発

研究課題

研究課題/領域番号 20H05674
研究機関京都大学

研究代表者

杉野目 道紀  京都大学, 工学研究科, 教授 (60252483)

研究期間 (年度) 2020-08-31 – 2025-03-31
キーワード不斉合成 / 触媒設計 / 有機金属化学 / 機能性高分子 / キラル高分子
研究実績の概要

二つの不斉増幅-“弱いキラル相互作用の増幅”と“光学純度の増幅”-を実現する次世代触媒的不斉合成システムとして、本来微弱なキラル分子相互作用を増幅し、鋭敏ならせん誘起を受ける動的らせん高分子PQXを骨格とするキラル高分子触媒の開発を進めている。このため、らせん誘起ユニット構造探索と、触媒反応開発を並行して進めており、以下に掲ける研究成果が得られた。
【1】らせん誘起ユニット構造探索:PQXには特別なゲスト受容部位は導入せず、PQX主鎖または側鎖との非結合性相互作用によってらせん誘起を行う方法の開発を行なった。プロピルオキシメチル基を有するモノマーユニットから構成されるPQXに対し、新たに乳酸の環状2量体(L-lactide)が高いらせん不斉誘起効果を示すことがわかった。一方、PQXとキラルゲストの疎水性相互作用を高め、またイオン結合や水素結合の利用を可能にするため、カルボキシル基を側鎖に有する水溶性PQXcoohおよびポリエチレングリコール鎖を有するノニオン性PQXtregの合成に成功し、それぞれキラルアミン類およびマンデル酸により、水中において強いらせん誘起を受けることを見出した。
【2】触媒反応開発:求核性のp-(ジプロピルアミノ)ピリジル基を導入したPQXdpap触媒を用い、2級アルコールの速度論的光学分割を実現した。最も効果的な場合では鏡像異性体間での反応速度差sが50以上に達することを明らかにした。
【3】上記に加え、PQXとキラルゲストの非結合性相互作用の理論的、分光学的解明を進めた。NMR測定とDFT計算によってPQXと1,1,2-トリクロロエタン(TCE)の相互作用を調べたところ、PQX主鎖が形成する浅い溝(DNAにおけるGrooveに相当)にTCEが収まっていることがわかった。ロンドン分散力、および側鎖エーテル酸素との静電相互作用が主たる誘引力であった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

研究計画のほぼ全ての項目において計画以上の成果を得ており、順調に研究が進展している。特に重要な研究成果を以下に掲げる。(1) アキラルらせん高分子PQXに対し、有機溶媒中で保護天然アミノ酸、あるいは乳酸環状2量体を「混ぜるだけ」で、PQXのらせん方向を熱力学的に完全に制御できることを明らかにした。(2) 様々な触媒活性部位を導入したPQXが、「PQXbpy/銅触媒によるエナンチオ収束的Dumasカップリング」を含む4つの不斉触媒反応の優れた触媒となることを新たに見出した。(3) Ac-L-Pro-OMeに代表される保護天然アミノ酸を唯一のキラル源として用いる触媒的不斉反応を実現した。この反応系においては、保護天然アミノ酸からPQX触媒への非結合性キラル相互作用に基づいたキラリティ転写が効果的に進行し、PQX触媒に対して一方向巻きらせん構造が高選択的に誘起されることが鍵となっている。(4) アミノアルコールのN-保護体がボロニル基をゲスト受容部位として有するPQXbohに対して効果的ならせんキラリティ誘起効果を示すことを明らかにした。(5) C2対称ジホスフィン型配位子を新たに合成した。金属にキレート配位した環状構造におけるキラル配座がPQXのキラル骨格によって効果的に制御され、デヒドロアミノ酸のロジウム触媒水素化反応において89:11のエナンチオ選択性を得た。これによって、極めて適用範囲の広いジホスフィンキレート型配位子への展開に道が拓けた。(6) PQX骨格に対する有機小分子のらせん誘起において、PQXのgroove(溝)に対して有機小分子がロンドン分散力や静電相互作用などの非結合性分子間力により相互作用していることを、等温滴定熱量測定、NMR測定、および理論計算によって明らかにした。
これらを総合し、本研究は当初の研究計画の想定を超えて進展していると自己分析した。

今後の研究の推進方策

(1) らせん反転をロックして行う不斉反応の開発:動的に誘起したキラルらせん構造を添加物の利用や化学反応等の化学的処理によって「ロック」する方法を確立する。これによって、キラル化合物を一切消費しない不斉合成が実現する。
(2) 新規触媒活性部位のデザインと合成:これまでC1対称型に限定されていた触媒活性部位を、C2対称型に拡張する。特に、金属にキレート配位が可能なジホスフィン型の配位子構造を導入し、幅広い不斉反応への展開を図る。
(3) 自己増幅不斉触媒反応の開発: 極めて低い光学純度を有するキラル源から高い光学純度の生成物を与える、自己増幅不斉触媒反応を開発する。

  • 研究成果

    (15件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)

  • [雑誌論文] Protected Amino Acids as a Nonbonding Source of Chirality in Induction of Single-Handed Screw-Sense to Helical Macromolecular Catalysts2021

    • 著者名/発表者名
      Ikeda, S.; Takeda, R.; Fujie, T.; Ariki, N.; Nagata, Y.; Suginome, M.
    • 雑誌名

      Chem. Sci.

      巻: 12 ページ: 8811-8816

    • DOI

      10.1039/D1SC01764K

    • 査読あり
  • [雑誌論文] PQXdpap: Helical Poly(quinoxaline-2,3-diyl)s Bearing 4-(Dipropylamino)pyridin-3-yl Pendants as Chirality-Switchable Nucleophilic Catalysts for the Kinetic Resolution of Secondary Alcohols2021

    • 著者名/発表者名
      Yamamoto, T.; Murakami, R.; Suginome, M.
    • 雑誌名

      Org. Lett.

      巻: 23 ページ: 8711-8716

    • DOI

      10.1021/acs.orglett.1c03134

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Iridium-Catalyzed Enantioselective Intramolecular Hydroarylation of Allylic Aryl Ethers Devoid of a Directing Group on the Aryl Group2021

    • 著者名/発表者名
      Ohmura. T.; Kusaka, S.; Suginome, M.
    • 雑誌名

      Chem. Commun.

      巻: 57 ページ: 13542-13545

    • DOI

      10.1039/D1CC05684K

    • 査読あり
  • [学会発表] Dynamic Helical Macromolecular Catalysts for Catalytic Asymmetric Amplification2022

    • 著者名/発表者名
      Suginome, M.
    • 学会等名
      Arthur C. Cope Award Symposium, ACS National Meeting, San Diego, USA
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Poly(quinoxaline-2,3-diyl) as a Traceless Nonbonding-Interaction-Based Chiral Shift Reagent2022

    • 著者名/発表者名
      ○Fujie, T.; Yamamoto, T.; Suginome, M.
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] Carboxyl-substituted Poly(quinoxaline-2,3-diyl) for Quantification of a Small Enantiomeric Imbalance of Chiral Amines by CD Spectroscopy in Water2022

    • 著者名/発表者名
      ○Yamawaki, T.; Kuroda, T.; Nagata, Y.; Suginome, M.
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] オリゴエチレングリコール側鎖を有するノニオン性ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の合成とキラル添加剤による水中らせん不斉誘起2022

    • 著者名/発表者名
      ○田村拓夫・神谷尚明・山本武司・杉野目道紀
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] キラルなオリゴエチレングリコール側鎖を有する両親媒性ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の合成と主鎖らせん不斉制御2022

    • 著者名/発表者名
      ○神谷尚明・山本武司・杉野目道紀
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] L-ラクチドとの非結合相互作用に基づいたポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の効率的らせん不斉誘起2022

    • 著者名/発表者名
      ○大本佳奈・藤江峻也 ・山本武司 ・杉野目道紀
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] 不斉増幅を伴う高分子求核触媒の動的らせん不斉誘起:保護アミノ酸をキラル源とする不斉アシル転位反応2022

    • 著者名/発表者名
      ○有木直人 ・ 藤江峻也 ・ 大本佳奈・山本武司 ・杉野目道紀
    • 学会等名
      日本化学会第102春季年会
  • [学会発表] Asymmetric Amplification in Catalysis Enabled by Dynamic Helical Macromolecular Catalysts2021

    • 著者名/発表者名
      Suginome, M.
    • 学会等名
      Pacifichem 2021, Symposium on Switchable Catalysis, Online
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 新規動的キラル機能開拓を指向したらせん高分子の精密構造デザインと制御2021

    • 著者名/発表者名
      杉野目道紀
    • 学会等名
      高分子年次大会
    • 招待講演
  • [学会発表] キラリティ可変らせん高分子ビピリジン配位子を用いた銅触媒によるエナンチオ収束的分子内カップリング反応2021

    • 著者名/発表者名
      ○山本武司・良永由佳子・杉野目道紀
    • 学会等名
      第70回高分子討論会
  • [学会発表] らせん高分子との非結合性相互作用に基づいたNMR分光法によるキラル分子の不斉認識2021

    • 著者名/発表者名
      ○藤江峻也・山本武司・杉野目道紀
    • 学会等名
      第70回高分子討論会
  • [学会発表] ポリキノキサリンのらせん不斉制御におけるハロアルカンとの非結合性相互作用の効果2021

    • 著者名/発表者名
      ○藤江峻也・山本武司・杉野目道紀
    • 学会等名
      第67回高分子研究発表会

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi