研究課題/領域番号 |
20H05676
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
君塚 信夫 九州大学, 工学研究院, 教授 (90186304)
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研究分担者 |
江原 正博 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 計算科学研究センター, 教授 (80260149)
宮田 潔志 九州大学, 理学研究院, 助教 (80808056)
藤川 茂紀 九州大学, カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所, 教授 (60333332)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 三重項 / フォトン・アップコンバージョン / シングレット・フィッション |
研究実績の概要 |
本研究は、分子設計と分子組織化に基づき励起三重項状態の光緩和過程を操る「分子システム」を合理的に設計するための方法論を開発することを目的とする。光機能性分子の自己組織化と、高精度電子相関理論、超高速分光ならびにナノプラズモニクスとの分野融合に基づいて、近赤外~紫外光領域における分子組織化TTA-UCシステムを構築する。本年度は、可視(Vis)領域内、近赤外(NIR)-紫外(UV)光領域において、大気下で駆動する分子組織化TTA-UC高分子フィルムの設計ならびに作製技術の開発を進めた。3つのアプローチで、酸素下でアップコンバージョン(TTA-UC)を示す固体フィルムの作製技術を探索した。まず第一は、酸素透過性の低いポリビニルアルコール(PVA)をマトリックスとし、PVA中に近赤外領域に吸収を持つ三重項増感剤(ドナー)を発光体(アクセプター)のナノ粒子に内包させることにより、アクセプター(アモルファス固体)中における三重項エネルギー移動とエネルギーマイグレーションを利用することが可能となった。第二は、タンパク質ゼラチンをマトリックスとするもので、中性界面活性剤(TX-100、液体)がゼラチンフィルム中でナノサイズの液体ドメインを形成し、ドナー、アクセプター分子がこのナノ液滴中で分子拡散機構によるTTA-UCを示す複合フィルムの開発である。第三は、酸素バリア能が高く、産業的に応用されているエポキシ樹脂フィルム中にドナーとアクセプターを高密度かつ均一に溶解する技術の開発である。これらのアプローチにおいても、従来溶液系が主であったTTA-UCの研究から固体フィルム系へのパラダイムシフトを誘起する成果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近赤外(900nm以上)領域にS-T吸収を有するOs錯体を、アクセプター(発光体)であるルブレンナノ粒子に内包し、これを酸素バリア能を有するPVAフィルムに埋包することにより、アップコンバージョンフィルムを作製した。938nm励起によりアップコンバージョン特性を調べたところ、ルブレンの発光とOs錯体の吸収スペクトルがオーバーラップするために、ルブレンの励起一重項からOs錯体への逆エネルギー移動が避けられず、アップコンバージョン効率を低めることが問題となった(アップコンバージョン効率 0.43%)。そこで、ルブレンの励起一重項エネルギーのコレクター分子としてdibenzotetraphenylperiflanthene (DBP)分子を導入し、ルブレンから一重項エネルギー移動によりDBPからアップコンバージョン発光させた。その結果、アップコンバージョン効率は0.43%から4.1%(max 100%)に増大した。このように、アクセプターナノ粒子中にドナーとコレクターを導入し、アクセプター励起一重項からドナーへの逆エネルギー移動よりも効率的にコレクターにエネルギー移動する方法論により、NIR励起によるTTA-UCの効率化が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
エポキシ樹脂フィルム中にアクセプターを高密度かつ均一に溶解するために、イオン液体型のアクセプターを用いることが有用なことを見いだした。エポキシポリマーは酸素バリア能を有するため、期待できる一方、三重項エネルギーマイグレーション範囲が、樹脂に囲まれたアクセプタードメイン中に限られることが示唆されている。より広範囲のエネルギーマイグレーションを実現し、TTA-UC効率を改善するためには、ポリマー主鎖中にアクセプターを共有結合で導入する。また、これまで自己組織化フォトンアップコンバージョンの固体フィルム化技術をさらに高感度化するべく、二次元的に配列した金属ナノ結晶アレイのギャップドプラズモンモードを利用して、低い励起光で効率良くTTA-UCを固体条件で実現する技術の開発に取り組む。さらに、自己組織化アップコンバージョンで開拓した方法論をベースに、自己組織化シングレットフィッションの科学を展開する。
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