研究課題/領域番号 |
20H05690
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
関根 俊一 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (50321774)
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研究分担者 |
鯨井 智也 東京大学, 定量生命科学研究所, 助教 (70823566)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | RNAポリメラーゼ / ヌクレオソーム / 転写伸長因子 / ヒストンシャペロン / 転写終結因子 / クライオ電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
DNAの遺伝情報をRNAに転写する巨大なタンパク質複合体であるRNAポリメラーゼは、細胞内の多数の分子と相互作用し、様々な生命機能を支えるハブとして機能している。しかしながら、転写と様々な機能との接点で形成される分子の実体やその構造、機能や制御のメカニズムはほとんど分かっていない。これらの高次複合体の構造解析を行い、重要な生命機能の分子メカニズムを解明するために、本年度は以下のように研究を進めた。 真核生物では、ゲノムDNAはヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造をとって細胞核内に収納されている。我々は、クライオ電子顕微鏡を用い、RNAポリメラーゼII (RNAPII)がヌクレオソーム構造を保持しながらヌクレオソームを通過する仕組みを初めて明らかにした。RNAPIIは、ヒストンシャペロンおよび転写伸長因子の助けを借りて、前方にあるヌクレオソームを一旦解体し、後方で再度組み立て直すことによってそれを達成していた。また、クロマチンの主要な構成要素であるリンカーヒストンの転写伸長に及ぼす影響を調べるために、リンカーヒストンH1が結合したクロマトソームを用いた解析を行い、H1が転写に阻害的に働くメカニズムの一端を明らかにした。 RNAポリメラーゼ (RNAP)は、遺伝子の末端まで転写を行うと、DNAとRNAを解離して転写を終結する。細菌の多くの遺伝子の転写終結を担う転写終結因子Rho(ATP-dependent RNA helicase)はRNAを転写中のRNAP伸長複合体と新生RNAに結合し、RNAとDNAをRNAPから解離させる。クライオ電子顕微鏡を用い、Rhoが転写伸長複合体に結合した状態の構造を初めて捉えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
真核生物および細菌の系で重要な複合体の構造解析を進め、順調に成果があがっている。特に真核生物の系では、RNAPIIがヌクレオソームを通過する過程を再現し、クライオ電子顕微鏡による構造解析を行うことにより、RNAPIIの進行に伴って下流のヌクレオソームが解体され、DNAが剥がれたヒストンをFACTが捉えてRNAPIIの上流側に移し、転写伸長因子が形成する「ゆりかご」がヒストンを受け取ってヌクレオソームを再度組み立てる過程を世界で初めて捉えることに成功した。以前の研究による状況証拠から、転写依存的なヌクレオソームの再形成のメカニズムの存在が示唆されていたが、それを可視化して実体を捉えた学術的インパクトは極めて大きく、当初の想定を超える画期的な成果である。また、今回の構造から、RNAPIIがヌクレオソームを乗り越える際にヌクレオソームが反転することが示唆されており、従来の概念を大きく転換する可能性を秘めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、RNAポリメラーゼを中心に形成される種々の巨大複合体の調製・再構成を行い、クライオ電子顕微鏡解析を主体とした構造解析を行う。特に、真核生物についてはヒトの転写複合体を、細菌については転写翻訳共役複合体に重点を置いて構造解析を進めていく。必要に応じてタンパク質やRNA因子の組み合わせや変異体の使用を検討するなど、工夫を凝らして進め、真核生物および原核生物の細胞内における転写と他の機能との接点の実体の解明に取り組む。
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