研究課題/領域番号 |
20H05692
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 寧 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60292984)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | HSV / SLC35E1 / N型糖鎖修飾 / 抵抗性因子 / 回避機構 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、研究代表者が長年の基礎研究で蓄積してきた様々な感染現象に関する知見を基盤に、先端的テクノロジーにより紐解く各感染現象を生体レベルのin depth解析に落とし込み、多階層的知見を単純ヘルペスウイルス(HSV)の増殖・病態発現機構の全体像として統合的に理解することを目標としている。今期は、以下の知見を解明した。
1.イメージングとCRISPRスクリーニングを併用することで、HSV粒子の核膜通過を司る新規宿主因子として、Orphan transporter SLC35E1を同定した。SLC35E1が核膜間に出芽したウイルス粒子を包む小胞と核外膜間の融合段階に関与していたこと、SLC35E1のtransporter活性を司ると想定されるアミノ酸残基における変異導入(K142A)時、SLC35E1欠損と同様の表現系が認められたことから、核膜間領域への物質のやり取りが、効率的なHSV粒子の核膜通過に必要であることが示唆された。 2.シングル・セルテクノロジーにより、HSV遺伝子発現の不均一性を生み出す宿主因子の有力な候補を得た。実際、候補宿主因子のKO細胞を樹立後、多段階のウイルス遺伝子発現をリアルタイムに可視化できる組換えHSVを用いて、HSV遺伝子発現を1細胞単位で詳細に解析することで、候補宿主因子がHSV遺伝子発現の不均一性を司ることを見出した。 3. HSV主要エンベロープ蛋白質におけるN型糖鎖修飾が、中和抗体からの回避に関与することを解明した。今後は、ヒト・ガンマグロブリン投与マウスを用いて、本糖鎖修飾の生体レベルにおける役割の解明を試みる。また、変異HSVを用いたマウス病態解析モデルで得られた知見と想定される分子機構を突破口に、変異HSVとKOマウスを用いた病態解析を実施し、生体レベルにおけるHSV抵抗性因子とHSVによる回避機構を解明しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請課題では、① HSV輸送機構・粒子成熟機構の解明、② HSV遺伝子発現の不均一性の解明、③ 生体レベルにおけるHSV宿主免疫・抵抗性回避機構の解明、を試みている。当初の計画通り、先端的テクノロジーと申請者の長年の基礎研究により蓄積した知見・マテリアルを活用することで、今年度も①~③の研究課題をバランスよく進展させることができた。しかしながら、本研究では、先端的テクノロジーにより紐解く各感染現象を生体レベルのin depth解析に落とし込み、多階層的知見を単純ヘルペスウイルス(HSV)の増殖・病態発現機構の全体像として統合的に理解することを目標としているにも関わらず、①および②の解析は培養細胞系に留まってしまったこと、得られた知見の学術論文化が①のみに偏っていること、コロナ禍の影響もあり、共同研究者と実施予定であったオミックス解析に遅延が生じていることを鑑み、本研究はやや遅れていると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、① HSV輸送機構・粒子成熟機構の解明、② HSV遺伝子発現の不均一性の解明、③ 生体レベルにおけるHSV宿主免疫・抵抗性回避機構の解明を柱に、各感染現象を生体レベルのin depth解析に落とし込み、多階層的知見を単純ヘルペスウイルス(HSV)の増殖・病態発現機構の全体像の統合的理解を目指す。 ①に関しては、SLC35E1の知見を基盤に、ファミリー分子にも解析を拡張することで、核膜間領域への物質のやり取りとHSV粒子の核膜通過に関して、さらなる知見の積み上げを試みる。また、HSV粒子の最終エンベロープ獲得に関しても、宿主因子との相互作用を解明するため、候補スクリーニングやturboIDを用いたインターラクトーム解析を実施する。②に関しては、解明しつつあるHSV遺伝子発現の不均一性を司る宿主因子の阻害剤を用いた生体レベルでの解析や、相互作用するウイルス因子の探索・結合アミノ酸の同定を通じ、部位特異的変異HSVを作出し、マウス病態モデルに供することで、宿主因子およびウイルス因子の両面から生体レベルでの解析を試みる。③に関しては、ヒト・ガンマグロブリン投与マウスを用いて、HSV主要エンベロープ蛋白質におけるN型糖鎖修飾の生体レベルにおける役割の解明を試みる。また、解明しつつあるHSV抵抗性因子とHSVによる回避機構に関して、分子メカニズムの解明を試みる。
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