研究課題/領域番号 |
20H05696
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
淺原 弘嗣 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (70294460)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 腱・靱帯 / Mkx / 運動機能 / 運動機能 |
研究実績の概要 |
運動器の正確かつ強靭な機能を果たすためには、筋肉と骨・軟骨が腱・靱帯によって強固に結ばれていることが重要である。さらに、適切な運動刺激を与えることでその機能が向上する。しかし、具体的に腱・靱帯がどのように運動刺激を感知し、ホメオスタシス(恒常性)を維持しているのか、その詳細な分子機構はまだ解明されていない。本研究では、腱組織内に存在する腱細胞の動態に注目し、腱細胞がメカノ刺激を感知し、下流カスケードとして、転写因子Mkxの遺伝子発現を特異的に促進し、腱細胞の分化と活動維持に関与していることを明らかにした。さらに、このメカニズムによって腱細胞内で腱特異的な一連の遺伝子発現が増加し、腱の肥大や強化が引き起こされることも示された。 Mkxの腱における機能を探索する目的で、Mkx遺伝子を編集したマウスを作成し、運動刺激が腱細胞に与える影響を個体および細胞レベルで検証し、その遺伝子プログラムを詳しく解析した。これにより、マウスの実験結果をもとにして、ヒトの腱組織における腱細胞の機能を比較検討し、ヒト腱細胞でもMkxを中心とした腱特異的な遺伝子プログラムが存在し、その活性化によって腱の恒常性維持が担われる可能性が予測された。 これらの研究成果は、運動器の重要な構成要素である腱・靱帯の機能の一端を明らかにするとともに、将来的な腱組織の疾患や損傷、加齢に対する医療応用の基盤を提供する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腱細胞におけるMkxを起点としたメカのセンシング機能解析 in vitroにおいて、より直接的にメカノ刺激からMkxへのカスケードが腱細胞におけるアナボリックなシグナルとして、どのように機能するのかを解析するため、種々のMkx遺伝子編集マウスを新たに作製し、そのアキレス腱から初代腱細胞を採取し、タモキシフェン処置後、細胞に対するメカニカルな刺激の影響を評価した。まず、腱細胞を播種し、4-OHT(5μM)により24時間、リコンビネーションを誘導、目的とする遺伝置換が80%以上の高率で行われることを確認できた。 次に、腱細胞をI型コラーゲンコーティングチャンバーに播種し、同処置でリコンビネーションを誘導した後、組織張力システムを使用して、ストレッチ幅および周波数を調整し腱細胞に伸長刺激を与え、トランスクリプトーム解析によって、メカノレセプターの活性の変化によるMkxを介した他の腱関連遺伝子発現を解析した。 また、これらマウスの腱が成熟する生後4ヶ月のマウスでタモキシフェン投与(5日間連続で100 mg / kgを注射しその後1週間間隔を空ける)を行い、瞬発力を測定する運動試験として① Modified long jump testを、持久力を測定する検査として② Run-to-Exhaustion testと③ Hanging wire testを実施し、Mkxのカスケードの運動機能に及ぼす影響を解析した。
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今後の研究の推進方策 |
Mkxを介したメカノシグナルカスケードの腱・靱帯への影響 マウストレッドミルモデルを使用して、機械的負荷の前後における、Mkxを含む腱特異的な遺伝子発現と組織学的変化に対するメカノシグナルの影響を検討する。トレッドミルによるアナボリック効果が確認できているプロトコールにおいて、アキレス腱からRNAを採取し、次世代シークエンサーを用いたRNAseqを行い、Mkxとその下流の遺伝子Tnmd、Col1a1、Col1a2、Fmod、Scxを中心とした腱関連遺伝子発現を含め、メカノ刺激の影響をRNAレベルで網羅的に解析し、アキレス腱および膝関節靱帯の組織学的解析として、腱・靱帯断面のH&E、Masson Trichrome染色とToluidine Blue染色を行う。コラーゲンの配向はピコシリウスレッド染色および偏光顕微鏡で分析し、主にI型コラーゲンに富む赤色に染色された繊維とIII型コラーゲンに富む緑色に染色された細い繊維の相対量を評価する。電子顕微鏡検査によって、合成されたコラーゲン線維を評価し、コラーゲン細線維の直径を解析する。生体力学的試験では、腓腹筋と骨を含む腱を採取し、単軸機械試験装置によって分析、剛性、弾性率、最終的な破損までの負荷を解析する。 腱・靱帯におけるMkxの筋組織への影響の解析 腱組織におけるMkxが、筋肉に影響を与えているのかどうかを評価するため、Mkx遺伝子変異マウスを用いて、直接脛骨神経へ50Hzのパルス刺激を行い、腓腹筋の強縮時における筋肉の収縮パターン、最大筋張力の変化を調査する。組織学的評価として、前脛骨筋の免疫染色を行い、TypeⅠ, ⅡA, ⅡXなどの筋繊維タイプの割合の変化を評価する。
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