研究課題/領域番号 |
20H05707
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大島 慶一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (30185251)
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研究分担者 |
深町 康 北海道大学, 北極域研究センター, 教授 (20250508)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (90371533)
二橋 創平 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 教授 (50396321)
三谷 曜子 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (40538279)
羽角 博康 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (40311641)
田村 岳史 国立極地研究所, 先端研究推進系, 准教授 (40451413)
真壁 竜介 国立極地研究所, 先端研究推進系, 助教 (40469599)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 海氷生産 / 海氷融解 / マイクロ波放射計 / 沿岸ポリニヤ / バイオロギング / 春季ブルーム / フラジルアイス / 淡水輸送 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的である長期海氷生産量データの作成には、衛星マイクロ波放射計による薄氷厚及び海氷生産量の推定アルゴリズムの検証を現場データに基づいて行うことが最優先事項と考えた。本年度は、南極で第2位の海氷生産量を持ち、南極底層水生成域であることが発見されたケープダンレーポリニヤにおいて取得した係留系データを検証に用いた。解析では、ADCP(超音波流速プロファイラー)の後方散乱強度の詳細な分析を行い、海中内部100m近くまでフラジルアイスが出現するイベントが頻繁に生じていることを発見した。さらに、海中フラジルアイスは新規に開発した衛星マイクロ波放射計AMSRの海氷タイプアルゴリズムによっても見事に検知できることもわかった。加えて、新規アルゴリズムによる熱的氷厚と熱収支計算から推定した海氷生産量による塩分変化は、観測された塩分の変動をよく説明する。これらの検証から、新規開発した海氷タイプ識別・薄氷厚アルゴリズムと海氷生産量見積もり手法の有効性が示された。深くまでフラジルアイスが達すると海底の鉄を含む堆積物の海氷への取り込みが行われることになる。海氷を介した物質循環において、最もわかっていない海氷への物質の取り込み過程に対しても、重要な知見を与えるものと考える。これらの成果論文Ohshima et al.(2022)は、Science Advances誌のFOCUS論文として取り上げられた。次に、この有効性が示されたAMSRアルゴリズムと熱収支計算から統一した手法を用いて、全球でのフラジルアイス域と海氷生産量の見積もりとマッピングも行った。新規の観測としては、南大洋では第64次日本南極地域観測隊のもと、海氷融解直後の海域で集中的にXCTD観測を行い、オホーツク海では漁船の傭船による海洋観測を行い、それぞれの海域で海氷融解量分布の推定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衛星マイクロ波放射計から海氷生産を推定する手法に関して、初めて現場データに基づいて検証することができたので、衛星を用いた海氷生産量の推定の信頼性と精度を一気に高めることができた。また、南極ポリニヤでの現場観測から海中で生成される海氷(フラジルアイス)を介して堆積物や鉄が輸送されるプロセスに迫る観測研究ができたので、サブ課題の一つである、海氷を介する物質輸送に関する研究が大きく前進した。海氷による物質輸送の研究には海氷のサンプリングが必須であるが、日本南極地域観測隊の協力のもと、砕氷艦しらせのクレーンを用いてバスケット(人が降りて作業するかご)から海氷コアドリルを用いて海氷をサンプルする手法を確立した。これにより厚い海氷でもサンプリングが可能となり、海氷を介する物質輸送の研究がさらに進むことが期待される。海氷融解に関しては、南大洋とオホーツク海での春季の集中観測により空間分解能の高い検証データを得られ、今後衛星による海氷融解量推定に供される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
衛星マイクロ波放射計AMSRでの海氷生産量の推定手法が高精度で検証されたので、今後作成されるSSM/I、SMMRの薄氷厚アルゴリズムによる海氷生産量と比較・検討することで、センサー間によるバイアスを可能な限り除き、全球での45年間の海氷生産量のデータセット作成をめざす。海氷融解量についても、今まで行ってきた現場海洋観測からの海氷融解量の見積もりを検証データとして、AMSRによる海氷融解推定アルゴリズムの開発を引き続き継続する。しらせでのバスケットによる海氷サンプリングが確立されたので、第65次日本南極地域観測隊(2024年1-3月)においても、海氷サンプリングを行う。また、第64次隊で取得した海氷サンプルの分析を行い、海氷中に含まれている物質の同定などを行う。現場観測サイトとして設定していた北極チュクチ海での観測はコロナ禍により、現地へ赴くことは断念していたが、アラスカ大学が代わりに係留系観測を行ったので、2023年度は現地に赴き、アラスカ大学との共同研究を再開する。
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