研究課題/領域番号 |
20J00003
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊丹 將人 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(PD) (00779184)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 非平衡統計力学 / 大偏差理論 / ランジュバン方程式 / ゆらぐ流体方程式 |
研究実績の概要 |
1.断熱ピストンの有効ランジュバン方程式の導出 温度勾配下の物体の有効的な運動方程式の導出を目指し、断熱ピストン問題(無限に長い筒に1次元方向に摩擦なく自由に動ける仕切壁を入れ、左右の領域を同圧異温の理想気体で満たす設定)でピストンの運動の解析を行った。ピストンの長時間での振る舞いに着目し、長時間変位のキュムラント母関数を摂動計算によって解析的に求めたところ、このキュムラント母関数を再現するランジュバン方程式が無限に存在することが明らかとなった。非平衡系では詳細つりあい条件が成り立っていないため、これ以上方程式の形を制限する条件は知られていない。そこで、運動方程式を一意に絞るための条件を考察し、あり得る候補を2つ提示した。この研究が非平衡系の有効的な運動方程式を理解するための第一歩となることを期待している。以上の結果を論文にまとめ、論文はPhys. Rev. Eに掲載された。
2.平衡流体における面平均カレントの長距離相関 元々の研究実施計画では想定していなかったが、受入研究者との議論により、線形化されたゆらぐ流体方程式を用いた解析を行うことで、平衡流体において面平均されたカレントの相関を時間積分した量が系全体の大きさに依存するような長距離相関を示し、空間相関は減衰しないことを発見した。線形化されたゆらぐ流体方程式を用いて非平衡系の熱力学量の相関を解析すると、平衡系では現れない長距離相関が現れるものの、この寄与は非常に小さく、分子動力学シミュレーションでは観測が難しいことが知られている。そこで、小さい系で分子動力学シミュレーションを行い、平衡系の面平均カレントの長距離相関は数値的に観測可能であり、定量的にも解析結果と近い値が得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では断熱ピストン問題をくりこみ理論によって解析する予定であったが、それは完遂することができなかった。一方で、長時間変位に着目した研究を論文として出版することができ、予想していなかった平衡流体における面平均カレントの長距離相関の研究で成果が得られたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究では断熱ピストン問題において、ピストンの有効的な振る舞いを記述する運動方程式を決定することができなかったので、本年度は数値実験で得られたデータの解析を通して有効運動方程式の導出を目指す。まずは解析可能で単純なランジュバン方程式に従う物理量を有限の時間間隔で測定した際に、ランジュバン方程式を推定する方法について研究し、うまく研究が進んだ場合はこの方法を断熱ピストン問題に適用したい。
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