1.ブラウン運動の空間粗視化 実施計画の通り、周期ポテンシャル中で外力駆動したブラウン粒子の空間粗視化について考察した。周期ポテンシャルの間隔よりも長いスケールで空間粗視化を行った場合、周期ポテンシャルの寄与はならされ、長時間変位の統計性は繰り込まれた外力と拡散係数を持つ単純なブラウン運動と一致するという予想を立てたが、長時間変位の統計性は空間粗視化によって変化しなかった。粗視化した系の有効記述方法を今後も模索する。 2.平衡流体における面平均カレントの長距離相関 昨年度末に、平衡流体では面平均された熱流の空間相関を時間積分した量は減衰しないことを分子動力学シミュレーションによって確かめた。今年度は熱が流れる非平衡環境下で理論的に予言されている温度の長距離相関をシミュレーションで検証したが、理論結果を再現できなかった。同じゆらぐ流体方程式による予言でも、境界条件や観測量によって解析的な結果を再現できる系が異なる可能性を示唆している。ゆらぐ流体の適用限界の解明へと繋げたい。 3.1次元熱伝導系における異常な熱流ゆらぎ 実施計画から外れるが、2の研究との関連でフランスの研究者と共同研究を行った。1つの粒子が箱の中を1次元的に動き、壁に衝突するとレイリー分布に従うランダムな速度で跳ね返されるモデルを考える。レイリー分布のパラメータは温度に対応しており、両側で温度差があると系に熱が流れる。熱伝導下で時刻0からtまでに流れた熱の分散は、tが十分大きいときに異常な振る舞いを示すことを発見した。粒子数が2個以上の場合、粒子間の相互作用がないか、ハードコアにすると同様の性質を示すが、僅かにでもソフトコアの相互作用を入れると分散がtに比例するようになることを発見した。系に僅かにでもカオス性がある場合、熱浴に起因する特異性はなくなり、標準的な性質が回復することを示唆している。
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