研究課題/領域番号 |
20J00033
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
阪上 春花 京都産業大学, 生命科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 膜透過装置 / タンパク質輸送 / 膜間部タンパク質 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは外膜、内膜、膜間部、マトリックスの4つの区画に分けられる。ミトコンドリアタンパク質はサイトゾルで合成され、膜透過装置を介して適切な区画へ輸送される。本研究は膜間部タンパク質の外膜透過の分子機構の解明を目的とする。当該年度は以下の3点の課題に取り組んだ。1. 膜間部タンパク質はどのようにして特定の構造の外膜透過装置を認識するのか。2. 膜間部タンパク質は外膜透過後、どのようにして下流の因子に引き渡されるのか。3. 呼吸条件下において膜間部タンパク質の外膜透過が促進するのはなぜか。<課題1>外膜透過装置TOM複合体は、Tom22を含む3量体がメジャーに存在する一方で、Tom22を含まない2量体がマイナーに存在する。膜間部タンパク質が外膜透過時にどちらの複合体を認識するかを調べるため、輸入基質の膜透過中間体の構築を試みた。膜透過中間体、すなわち基質であるTim9をサイトゾル側からトラップすることで、TOM複合体のチャネル分子であるTom40を貫通し、チャネル内部で膜透過が停止するように設計した。サイトゾル側からトラップするためにDHFRまたはSBPタグを利用したが、いずれも基質の外膜透過自体が阻害されることが判明した。基質のデザインを検討し、引き続き膜透過中間体の構築をめざす。<課題2>膜透過中間体の構築後に、中間体と外膜のTOM複合体および内膜のMia40-Erv1複合体の各サブユニットと酵母細胞内で架橋反応を行い、外膜因子から内膜因子への基質の受け渡し経路をマッピングする予定である。<課題3>呼吸条件依存的に基質の輸入を促進する因子を同定するため、発酵・呼吸の各条件で基質を過剰発現する出芽酵母株の構築に成功した。従来のGAL1プロモーター(ガラクトース培地で発現を誘導)とは異なり、炭素源に依存せずに薬剤の添加でタンパク質の発現を誘導可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<課題1>Tom40チャネルで膜間部タンパク質の膜透過が停止する中間体を構築するために、まず基質であるTim9にジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を融合し、メトトレキセート存在下でin vitroインポート実験を行った。メトトレキセート存在下でDHFRをサイトゾル側で強固にフォールディングさせることで、Tim9をチャネル内部に留まらせることを期待したが、Tim9-DHFRとTom40チャネルの相互作用は検出されなかった。次に、Tim9にSBPタグを付加し、ストレプトアビジン存在下でin vitroインポート実験を行った。ストレプトアビジン存在下でTim9-SBPはTom40チャネルと相互作用が検出されなかった一方で、ビオチン添加でストレプトアビジンをSBPタグから解離させると外膜を透過した。以上の結果から、Tim9にフォールディングしたタンパク質を融合あるいは結合させると、Tom40チャネルへの挿入自体が阻害されることが判明した。 <課題2>外膜因子から内膜因子への基質の受け渡し経路のマッピングは、膜透過中間体の構築に成功した後の計画であるため、取り掛かっていない。課題1の中間体形成の検討実験の傍ら、架橋反応に必要な酵母株の作成および技術習得などの準備を行った。 <課題3>目的タンパク質のプロモーター置換およびタグの付加を、相同組み替えを利用して出芽酵母のゲノム上で行う技術を当該年度に習得した。これにより、自身がデザインした基質を酵母 のゲノム上で自在に発現させることが可能となった。課題1の結果から、SBPタグを付加したTim9は外膜を透過可能であることが判明したため、Tim9-SBPを薬剤依存的に過剰発現する株を構築した。薬剤添加後に時間経過と共に、発酵・呼吸の両条件でTim9-SBPが発現することが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
<課題1>当初の計画でデザインしていた基質では膜透過中間体の構築が困難であった。しかしその後の文献調査で、膜間部タンパク質のリボソーム新生鎖複合体(RNC)の新生鎖がTom40チャネルを貫通した状態で停止可能であることが判明した。まずは文献の再現実験が必要である。Tim9-RNCを無細胞タンパク質合成系で合成し、酵母細胞から単離したミトコンドリアとインポート実験を行い、膜透過中間体を形成可能か検証する。野生型Tim9で膜透過中間体の形成効率が低い場合、内膜因子であるMia40とジスルフィド結合を形成するTim9 C35変異体も検討する。膜透過中間体の形成確認後、Tim9-RNCが貫通するTOM複合体が3量体かあるいは2量体かを生化学的に解析する。 <課題2>酵母細胞内で外膜のTOM複合体、内膜のMia40-Erv1複合体の各構成因子に光架橋基を導入した後ミトコンドリアを単離する。光架橋基を有するミトコンドリアで膜透過中間体を形成させ、基質が外膜透過時にどの因子に近接するか、輸入経路のマッピングを行う。課題1でTim9-RNCの形成確認後、C末端にスペーサーを付加することで、Tom40チャネルから膜間部に露出するTim9の長さを調節する。チャネルから露出する長さを徐々に伸ばし、膜間部タンパク質が外膜因子から内膜因子へと受け渡される過程をアミノ酸残基の分解能で明らかにする。 <課題3>炭素源に依存せずに、薬剤の添加でTim9-SBPを過剰発現する株を構築することができたので、まずはタンパク質発現誘導の条件検討を行う。発現条件の決定後、発酵条件および呼吸条件で培養した酵母細胞で過剰発現させたTim9を精製し、呼吸条件依存的に結合する因子を探索する。結合因子の候補が得られたら、候補遺伝子を破壊あるいは発現抑制し、呼吸条件における膜間部タンパク質のインポートの影響を調べる。
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