翻訳はリボソーム自身がダイナミックな構造変化を起こしながら様々な翻訳制御因子との結合と解離を繰り返すことで進行する動的な反応である。本研究では生体分子の形状と動きを同時観察できる高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いて、翻訳反応におけるリボソームの機能ダイナミクスを捉えることを目標とし、(1)高速AFM観察のためのリボソーム試料の固定化方法の検討、(2)リボソームストークの機能ダイナミクス解明、(3)タンパク質合成反応の各ステップの可視化に取り組む。2021年度は主に課題(3)に取り組んだ。
(3)タンパク質合成反応の各ステップの可視化: 当初の計画では翻訳伸長反応の可視化を試みる予定であったが観察に最適なリボソームの固定化条件を確立することができなかったため、一部計画を変更し、真正細菌のリボソームリサイクル反応、特にサブユニット解離反応の可視化に取り組んだ。まず、精製した大腸菌70Sリボソーム、リボソームリサイクル因子RRF、翻訳伸長因子EF-G、非加水分解GTPアナログGMP-PCPからなる70S pre-splitting複合体を試験管内で再構成後、アミノシラン処理したマイカ基板 (AP-マイカ) に固定し、高速AFMによる観察を行った。AP-マイカに固定されたpre-splitting複合体のZ方向のプロファイルをとると、おおよそ30~45 nmの高さを持っていたことから、pre-splitting複合体は複数の配向性を持ってAP-マイカに固定されることがわかった。リボソームの中央突起が明確に観察できた分子に関して、高速AFMの観察中に高濃度のGTPを含む緩衝液に交換したところ、GTP依存的に1~3回のトランスロケーション反応が生じ、それに続くサブユニット解離反応が観察された。
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