本年度は、前年度までの検討で明らかとなった、シミ目マダラシミの中腸上皮形成において、腸端細胞塊が中腸上皮形成に関与せず、全中腸上皮が卵黄細胞のみに由来する、ということに関する論文作成に主に取り組んできた。本研究成果は節足動物の発生学・形態学に関する国際誌にて公表されたほか、プレスリリースも行った。 折衷型中腸上皮形成を行うトンボ目について、ナツアカネを材料として、中腸上皮形成過程の光学顕微鏡観察による組織学的検討および透過型電子顕微鏡(TEM)観察による微細構造学的検討を実施した。その結果、腸端細胞塊は前腸細胞とは染色性の差異により光顕レベルで識別可能であることが明らかとなったほか、腸端細胞塊の頂端部がクチクラで被覆されている可能性を示すTEM像を得た。後者に関しては、腸端細胞塊が最終的に中腸上皮に分化するまでの間に、何らかの方法でクチクラの被覆が消失することを示唆するものであり、昆虫類の中腸上皮形成の変遷を考察するうえで、きわめて重要であると考える。今後、さらに慎重な検討が必要である。 カワゲラ目に関して、ミナミカワゲラ亜目の比較発生学的検討のために不可欠なニュージーランド(NZ)への採集調査を実施し、NZに生息するミナミカワゲラ亜目全3科の採卵に成功した。現在、発生学的検討に不可欠な、各発生段階の固定卵の確保を進めている。また、カワゲラ目の胚期の着色に関する論文1編を発表した。 そのほか、採卵のために飼育していたイシノミ目のうち、日本および極東ロシアのみに生息するヤマトイシノミモドキ亜科において、無翅昆虫類においてきわめてまれな、交尾のような配偶行動を行うという観察結果を得た。これは研究計画を策定した時点で予想していなかった成果であり、現在論文執筆を進めている。
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