本年度までの研究実施状況としては、(I)電弱真空の安定性を用いた新物理模型の検証、および(II)パートンシャワーに対する量子干渉効果の定量的検証を行なった。以下では各研究内容について報告する。 (I)電弱真空の安定性を用いた新物理模型の検証 よく動機付けられた新物理模型の例として超対称模型に着目し、電弱真空の寿命を計算することで模型に対する制限を求めた。ここで特に、ミューオンの異常磁気モーメントに対する超対称模型からの寄与を考慮に入れ、近年の実験での観測値を説明可能なパラメーター領域に対して解析を行なった。前年度までの研究結果に加え、3世代すべてのスレプトンが模型に含まれるような一般的なセットアップを考えることで、第3世代スレプトンが真空期待値を持つような別の真空への真空崩壊が可能であり、これにより模型への制限がより厳しくなることを示した。この結果を現在論文にまとめており、近日中の公開を予定している。 (II)パートンシャワーに対する量子干渉効果の定量的検証 パートンシャワーは強い相互作用や高いエネルギースケールを考える際に必要不可欠な理論的手法であるが、シャワーに係る粒子に複数のフレーバーが存在し、かつ相互作用によってこれらのフレーバーが非自明に混ざり合う場合、古典的なパートンシャワーでは取り入れられない量子干渉効果が存在することが知られている。本研究では、こういった干渉効果を正しく取り入れるために提唱された量子コンピューターを用いた手法を応用し、論文ではダークセクターと呼んだ複数のフレーバーを持つ一般のセクターで干渉効果がどのような現象論的帰結を生むかを検証した。この結果は同様の構造を持つ模型に広く適用可能であり、特に非常に高エネルギーの反応における電弱セクターの振る舞いにも同様の干渉効果が期待できることが示唆された。
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