第一に、呼吸という身体動作に着目し、その身体感覚の多様性や状況依存性について調査した。呼吸は無意識で自律的に制御される一方、意識的に変化させられるという特徴がある。呼吸の質的多様性を探索するなかで、呼吸にまつわる体感が、その瞬間の物理的環境や心理的状況とどのように影響を受けるか、また呼吸を意図的・能動的に制御することで、知覚や心理的状態がどう影響しうるかという点に関して観察を行った。この観察を通じて得られた知見は、第二の取り組みに応用された。 第二の取り組みとしては、三好のPhD時期からの研究テーマである「運動共感のデザインへの応用」を発展させるべく、人工物のプロトタイピングを通じた実践研究を継続した。周囲の人々に対して、現在の呼吸感覚を意識させ、そして何らかの呼吸運動感覚を提示または教示できるような人工物を考案し、その試作機を設計・制作を完了した。次年以降に特別研究員RPDとして取り組む課題においては、本試作機によって、利用者の実生活内の身体動作や感覚に対して、具体的にどのような介入が可能かを検討し、得られた知見を元にまた試作機のアップデートを試みることを予定している。 第三に、当該研究の理論的発展に取り組んだ。所属研究室内の研究会で取り扱った書籍『A Geography Of Time: The Temporal Misadventures of a Social Psychologist』(Robert V. Levine)を元に、本研究のアプローチの基礎にある人の経験の質的分析において、時間知覚の要素がどのように関係するのかを考察した。また、平井靖史による『世界は時間でできている:ベルクソン時間哲学入門』をきっかけとし、身体感覚の探究、および実践的デザイン研究の方法論である「リサーチ・スルー・デザイン」という二つのテーマにおける、ベルクソン時間哲学との接続を考察した。
|