研究課題/領域番号 |
20J00079
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
酒井 勝太 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 場の理論 / 量子もつれ / エンタングルメントエントロピー / 量子重力 / 弦理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、素粒子論における重要な未解決問題である量子重力理論の構成に向けて、重力理論(プランクスケール物理)と既知の物質理論の間にあるエネルギースケールの差を説明することを目指すものである。その鍵として、時間発展まで含めた宇宙の全体を量子論的対象として扱う量子宇宙描像に注目する。 本年度は初めに、量子宇宙描像の正確な概念について慎重に検討した。その結果、量子宇宙描像に基づく物理の解析には量子もつれを考慮した有効理論の一般論を理解することが本質的であると判断された。そこで本年度は主に、相互作用がある一般の場の理論における量子もつれの度合い、エンタングルメントエントロピー(EE)の定式化を進めた。ここには古典共形性場理論も含んでいる。具体的には、自由場のEEを導くオービフォールド法を、相互作用がある理論に拡張した。その結果、EEはくりこまれた相関関数を通じて低エネルギー有効理論と結びつくという、普遍的な視点を得るに至った。さらなる解析により、量子もつれと有効理論の関係についての一般論が構成できると期待されている。 量子もつれの解析とは独立に、量子重力に迫るアプローチの追求も行った。近年、2次元場の理論の変形の一種である"TTbar変形"が注目されている。特に無質量スカラー場理論の変形は弦理論の諸性質を再現する。本研究ではTTbar変形された無質量O(N)ベクトル模型における自由エネルギーとエントロピーを、ラージN極限をとり場の理論として非摂動的に計算し、TTbar変形固有の手法で導いたものと比較した。その結果、1/N補正が全次数で相殺していることが示唆された。1/N補正をもたらす自由度は負ノルム状態に対応することが既に明らかになっており、この結果から、負ノルムのモードは完全に分離し、正ノルム状態の空間だけで理論が整合的になっている可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鍵となる量子宇宙描像について慎重に再考した結果、当初想定していたものより正確な概念を認識し、それに基づく研究が行えた。特に中心的な役割を果たす量子もつれについて、従来解析が進んでいなかった相互作用のある系を議論できた。これは本研究のもう一つのカギである古典対称性が破れた系とも関係すると考えられる上、量子もつれをより実際的な有効理論と結びつけることができるもので、本研究の目的に沿った方向への進展を見せた。 また、2次元場の理論とTTbar変形と量子重力に関する研究は、重力理論と物質理論のエネルギースケールの差が、変形パラメタの取り方の問題に帰着できるという立場のものである。よって直接的に量子重力理論構成に関する手がかりを得られると期待された。研究の中でTTbar変形が従来の場の理論にはない新奇な構造を持つことが示唆され、物質と重力理論に関する新たな知見を得るという観点からは十分に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
量子もつれと低エネルギー有効理論の関係についてさらなる解析を行う。またそれだけでなく、量子もつれをはじめとする量子効果がもたらす宇宙の時間発展を解析することで、量子宇宙描像を具体化させる。それと同時に、TTbar変形等の弦理論と場の理論を直接結び付ける新奇なアプローチの基礎構造を調べる。
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