研究課題/領域番号 |
20J00119
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷本 敦 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 超巨大ブラックホール / 活動銀河核 / X線天文衛星NuSTAR |
研究実績の概要 |
超巨大ブラックホール(SMBH: SuperMassive Black Hole)成長の歴史を解明することは、天文学における最重要課題の1つである。銀河の中心には、約1億太陽質量のSMBHが普遍的に存在し、SMBH質量と銀河質量の間には、強い相関関係が知られている。この観測結果は、SMBHと銀河が互いに影響を及ぼしながら、共進化してきたことを示唆している。しかしながら、10桁もスケールが異なる、SMBHと銀河が、どのように共進化してきたのかは謎に包まれている。 この謎を解明する鍵が、活動銀河核(AGN: Active Galactic Nucleus)のトーラス構造である。AGNとは、銀河からSMBHへの質量降着により、銀河の中心核領域が、約10億太陽光度で光り輝く現象である。AGNの構造は、降着円盤がSMBHを取り囲み、さらにトーラスと呼ばれる構造が周囲を取り囲んでいる。このAGNトーラスは、銀河とSMBHの間に存在し、銀河からSMBHへの質量供給の役割を担っている。すなわち、AGNトーラスの理解は、SMBHと銀河の共進化を解明する上で、必要不可欠である。AGNトーラスは、ガスやダストから構成されている。しかしながら、AGNトーラスの水素柱密度分布や立体角分布は、未だに理解されていない。 そこで私は、X線天文衛星NuSTARによる52天体の隠されたAGN候補のX線分光観測データを解析した。隠されたAGNとは、コンプトン散乱に対する光学的厚みが1を超えるようなトーラスに隠されたAGNである。その結果、私は、52天体中28天体が真に隠されたAGNであることを同定した。また私は、従来の輻射制御AGN統一モデルでは説明出来ないような、Eddington比が高いにも関わらず、大きな立体角を持つ天体を発見した。私は、得られた結果をまとめ、主著論文を出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活動銀河核(AGN: Active Galactic Nucleus)のトーラス構造を調べるには、X線分光観測が最適である。AGNのX線スペクトルは、トーラスにより吸収される透過成分、トーラスからのコンプトン散乱成分、トーラスからの鉄蛍光X線成分から構成される。このコンプトン散乱成分や鉄蛍光X線成分は、AGNトーラス構造に強く依存する。すなわち、これらの成分から、AGNトーラスの水素柱密度や立体角を調べることが可能となる。しかしながら、X線スペクトルからAGNトーラスの構造を調べるには、AGNトーラスからのX線スペクトルモデルが必要である。 そこで私は、AGNトーラスからのX線スペクトルモデル改良に取り組んだ。近年の観測結果は、多くのガスの塊から構成されるトーラス(クランピートーラス)を示唆している。私はすでに、クランピートーラスからのX線スペクトルモデル(XClumpy)を作成し、その適用に取り組んできた。しかしながら、隠されたAGNのX線スペクトルの系統解析を行う上で、より精度の良く、広いパラメータセットのX線スペクトルモデルが必要であることがわかった。 そこで私は、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」を利用して、XClumpyモデルの改良に取り組んだ。私は、モンテカルロX線輻射輸送計算コードMONACO(Monte Carlo simulation for Astrophysics and Cosmology)を利用して、従来の約10倍の精度のモデル作成に成功した。私は、作成したモデルを、X線天文衛星NuSTARにより観測された、52天体の隠されたAGNのX線分光観測結果に適用し、AGNトーラスの水素柱密度や立体角の分布を過去最高の精度で決定した。以上から、私の研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで私は、SMBHと銀河の共進化機構を解明するため、AGNトーラス構造の研究に取り組んできた。ただし、SMBHと銀河の共進化を解明するには、銀河ガスがSMBHに降着し、SMBHを成長させる現象(SMBH Feeding)のみならず、SMBH Feedbackと呼ばれる現象の理解が必要不可欠である。SMBH Feedbackとは、SMBHアウトフローが銀河ガスを加熱し、銀河の星生成活動を停止させてしまう現象である。しかしながら、SMBHアウトフローの駆動機構や銀河に与える影響は未だに理解されていない。そこで私は、SMBHアウトフローの駆動機構の研究に取り組む。 SMBHアウトフロー駆動機構の最有力候補は、輻射駆動噴水モデルである。この輻射駆動噴水モデルは、ダストを含むガスが、降着円盤からの非等方輻射圧やX線加熱により、非定常なSMBHアウトフローを形成するモデルである。そこで私は、モンテカルロX線輻射輸送計算コードMONACOを利用して、輻射駆動噴水モデルからのX線スペクトルモデル作成に取り組む。しかしながら、現状のMONACOには、光電離平衡計算やL-shell ionsによる吸収線や輝線の計算機能が実装されていない。そこで私は、L-shell ionsによる吸収線や輝線の計算機能や光電離平衡計算機能を実装し、SMBHアウトフローからのX線スペクトルモデル作成に取り組む。
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