研究課題/領域番号 |
20J00120
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
泉 貴人 琉球大学, 海洋自然科学科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | テンプライソギンチャク / 同骨海面 / 共生 / 無性生殖 / 分類 / 未記載種 / 潜水調査 / 水族館 |
研究実績の概要 |
本年度は主に、テンプライソギンチャク類の採集調査及び研究室における観察環境の整備を重点的に行った。そして、本補助金および日本学術振興会特別研究員PDの計画において予定したテンプライソギンチャク類の採集調査を、新型コロナウイルス感染症流行の制限下で可能な限り実施し、沖縄島、小笠原父島及び慶良間諸島の阿嘉島において調査した。 その結果、阿嘉島においてテンプライソギンチャクと似たイソギンチャクを確認し、採集した。本種の宿主はテンプライソギンチャクTempuractis rinkaiの宿主とは全く見た目の異なる赤いノリカイメン類であった。形態分析を行ったところ、刺胞の構成が一部テンプライソギンチャクとは異なっていることが分かり、宿主が違うことと併せて未記載種である可能性が高まった。 また、鳥羽水族館及び名古屋大学菅島臨海実験所の協力の下、テンプライソギンチャクとノリカイメンの一種の共生体を用いて生態観察を行った。無性生殖がこれまで知られていた以上に活発に行われていることが明らかとなったが、有性生殖の観察までには至らなかった。しかし、10月に採集された標本において組織切片を観察したところ、ノリカイメンの一種において胚の成熟が見られたため、有性生殖のおおよその時期が推測できた。 また、透過型電子顕微鏡においてテンプライソギンチャクの宿主であるノリカイメンの一種を観察したところ、本種が未記載種であることが証明できた。本種において、現在記載論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テンプライソギンチャク類の採集及び生態の観察を1年目に予定していた。 しかし、特に2020年(1年目)は新型コロナウイルスの流行による外出制限により採集調査がかなり滞り、結局実施できたのは2年目になってからであった(繰り越しの分を使用しきった時点ではある程度は実施できた)。そして、採集調査でもあまりテンプライソギンチャク類の生体を発見することができず、未記載種と思しき種類としては慶良間阿嘉島で採集された1コロニーに留まった。 生体の観察の方は鳥羽水族館の協力をもとにある程度実施できたものの、有性生殖の証拠までは観察できず、無性分裂個体の行動観察を新たに行うにとどまった。 その代わり、もともと記載されていたテンプライソギンチャクTempuractis rinkai(タイプ種)の宿主であるノリカイメンの一種の形態観察を行い、それが未記載種であることを突き止めたこと、そしてテンプライソギンチャク自体がムシモドキギンチャク類の系統のもっとも基部にあたることなどを明らかにしたため、予定とは少しずれているがテンプライソギンチャク類を取り巻く課題を解決することはできたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
テンプライソギンチャク類及びその共生体において、以下の課題を行う。 ①新たな採集調査に赴き、テンプライソギンチャク類を可能な限り採集する。 ②阿嘉島で採集された未記載種と思しきテンプライソギンチャク類、および次年度に採集されたテンプライソギンチャク類を形態及びDNAを用いて種同定する。未記載種である場合、新種記載のための形態情報を入手する。 ③テンプライソギンチャクおよびノリカイメンの一種の生態観察を引き続き行い、生殖法を突き止める。無性分裂個体の行動観察は引き続き行い、可能なら有性生殖の観察まで至らせる。 ④宿主のノリカイメン類もDNAを採取し、サンガーシーケンス法ないし次世代シーケンサーを用いて宿主特異性があるのかどうか、正確に確認する。
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