研究課題/領域番号 |
20J00130
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
寺岡 諒 熊本大学, 人文社会科学研究部(文), 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 気配 / ゾクゾク感 / 鳥肌感 / マルチモーダル感覚情報処理 / 接触時間予測 |
研究実績の概要 |
他者が自身の近くにいる際,顕示的な感覚情報が与えられなくとも他者がそばにいる感覚(気配)を感じ取れる。この現象は様々な感覚要素から構成されると予想されるため,その度合いを定量的に評価するのは難しい。令和2年度の研究では,気配を感じる際に生じる鳥肌感(「ゾクゾク」感)が,気配の強度を定量的に計測する上で有用である可能性を示した。しかし,鳥肌感の強度や生じる際の潜時などの要因は個人差が大きく,鳥肌感自体を問う課題では効果を取り出せない可能性があり,気配を定量的に計測する上での課題であった。令和3年度は,身体に対して接近する刺激の持つ属性(例:無意味音 or 足音)の違いが,その時間的・空間的な知覚に及ぼす影響に着目し,気配(鳥肌感)の間接的な評価を試みた。実験では,実験参加者の奥行方向に並べられたラウドスピーカを用い,音刺激を接近させた。このとき,到来する音刺激の到来時間知覚や音刺激に対する不快感の度合いから,鳥肌感とこれらの指標との関連性を検討した。実験の結果,接近する音刺激が参加者の近傍であるほど,音刺激の到来時間が実際よりも短くバイアスされ,音刺激に対する不快感が増大することを示した。また,鳥肌感をより強く生じさせる音刺激(例:足音)を接近させた場合,その到来時間や不快感は他の音が接近する場合より強く生じることを示した。これらの結果は,個人差に対して頑健に気配の強度を評価できる可能性を示すものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は,特に気配の強度を客観的かつ定量的に評価するための手法の確立に関する研究に取り組んだ。従来の手法では,気配の指標である鳥肌感(「ゾクゾク」感)の感じ方には個人差が大きく,鳥肌感自体を問う課題では効果を取り出せない可能性があり,気配を定量的に計測する上での課題であった。そこで今年度は,身体に対して接近する刺激の持つ属性(例:無意味音 or 足音)の違いが接近刺激に対する評価に及ぼす影響に着目し,気配(鳥肌感)の間接的な評価を試みた。研究の結果,鳥肌感をより強く生じさせる音刺激(例:足音)を接近させた場合,他の音が接近する場合より時間知覚が短くバイアスされることが示された。また,接近刺激が到来する方向によってその強度が異なる(気配の感じ方に方位依存性がある)ことを示す興味深い結果も得られた。以上の成果は,1件の学術誌論文(in Press)と5件の国内学会発表にまとめられるなど,着実な成果を上げている。以上のことから,今年度は期待通り研究が進展したと判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度は,【1】生理心理学的手法による気配の定量的計測と,【2】気配の生起メカニズムについて検討する。【1】令和3年度の研究で,個人差に頑健で鳥肌感(気配)を客観的に計測できる可能性を示した。しかし現状の方法では,気配が生じるまでの時間(潜時)やその強度を評価できない。そこで令和4年度は,生理指標,特に皮膚電気抵抗の変化に着目し,気配の強度を客観的に評価する手法の確立を試みる。 【2】に関しては,【1】の研究で得られた知見をもとに,気配を生起させる物体の物理的な要因ついて検討する。そして,気配知覚の情報処理過程に関する検討を行う。 そして,以上の研究から得られた結果をもとに,本研究の集大成として,気配知覚のモデル化と,所望の音源に自在に気配を付与する気配フィルタの試作を行う。
|