初年度である2020年度は、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行によりさまざまな根本的変化を余儀なくされた年であった。本研究も、フランスでの資料調査については延期せざるをえなかった(最終的には2022年度に実施した)ほか、大小さまざまな制限を受けることとなった。 本年度のおもな研究成果として、単著『シモンドン哲学研究:関係の実在論の射程』(法政大学出版局、2021年)が挙げられる。本書は博士論文(本論全6章)を改稿し、あらたに2つの補論(「シモンドンにおける時間と自由、あるいは倫理」と「個体横断的なものの位置づけ」)を加えたものである。なかでも、テクノロジーや(政治的な)主体性の問題とも結びついている「個体横断性」あるいは「個体横断的なもの」というシモンドンの概念をベルナール・スティグレールやパオロ・ヴィルノ、そしてミュリエル・コンブらがいかに受容したかを整理しつつ、この概念からシモンドンのいう「自然」を考察する補論2は、本研究のテーマについて見通しを与えるものとなっている。つまり、シモンドンの「自然」には、いわゆる物理的な存在だけでなく、人間の活動が大きく関わるテクノロジーや政治といった「個体横断的なもの」も含まれるという見通しである。ある種の極として、包括性と混淆性とによって特徴づけることのできる「自然」は、そのものとして把握するというよりも、さまざまな水準での個体との相互作用を通じて把握されねばならない。学位論文以降のシモンドンの活動は、そのように「自然」を把握しようとした試みとして理解することができる。
|