最終年度である2022年度は、海外渡航の制限も徐々に緩和されてきたこともあり、年度末にフランスへ渡航し、資料調査をおこなうことができた。とくにフランスにおける技術論関連の資料を確認できたことは大きな収穫だったと言える。 研究成果としては、昨年度の日仏哲学会秋季大会での発表をもとにした論文「シモンドン哲学における技術性の概念と人間主義の顛倒」が当該学会の機関誌『フランス哲学・思想研究』第27号に掲載されたほか、シモンドンの「個体-環境」概念をめぐる論文が『表象』第16号に掲載された。この論文は、個体とその環境のカップリングというシモンドンの概念をいわば反転的に「自然」へと適用することで、生命によって根本的に改変されていることを「自然」の本質とみなすものである。 また、エマヌエーレ・コッチャ『メタモルフォーゼの哲学』(松葉類との共訳、勁草書房、2022年)が刊行されたのにくわえて、この翻訳と関連する論文として、シモンドンを含むフランスの技術論の系譜について考察する論文を紀要『Limitrophe』第2号に寄稿した。『メタモルフォーゼの哲学』の翻訳は本研究とは別に開始されたものだったが、技術の考え方にはシモンドンのそれに通じるところがあり、最終的には本研究のテーマである「自然」についてもあらたな視座を与えてくれるものとなった。さらに、コッチャに関連するものとして『ユリイカ』2023年4月号に植物の哲学に関する論考を寄稿した。
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