研究課題
昨年度に続く形で新型コロナウイルスによる入室制限などの影響が生じたことから、申請書に記載されている予定とはやや異なる研究活動を余儀なくされた。とはいえ、概ね研究の目的と合致した成果が複数得られている。それらの結果は計14編もの査読付き英文論文として結実した。内訳は、筆頭(単著)兼責任著者論文3編、責任著者論文2編、共同筆頭著者論文1編、その他共著論文8編である。主要な成果としては、琥珀中のハネカクシ科甲虫(Charhyphus属)の化石から外見では確認できない交尾器形態の情報をマイクロCTスキャンにより抽出し、3次元モデルを作成することに成功したことが挙げられる (Yamamoto et al., 2022, Earth Environ. Sci. Trans. R. Soc. Edinb.)。本研究は、硬化の程度が低い雌交尾器の形態を抽出できた数少ない研究例となり、本属の異質性を改めて示した。また、同科ホソヒゲハネカクシ亜科(Trichophyinae)で初となる化石を白亜紀の琥珀から記録し、形態進化の遅さや生物地理に関する考察を行った (Yamamoto & Newton, 2021)。また、本年度は共著論文で多大な成果を上げることができた。まず、甲虫目の大規模な系統解析と化石情報を用いた分岐年代推定を行った論文では、同時に高次系統分類の再編も行った (Cai et al., 2022)。今後、世界中の甲虫に関する系統分類の研究に大きな影響を与えるだろう。次に、白亜紀の琥珀中のアリ化石に関する論文である (Boudinot et al., 2022)。本論文は、1つの琥珀中からアリのワーカー(働きアリ)と同種の蛹の化石を報告したもので、中生代から初めてとなるアリの蛹の報告となった。その稀有な標本に基づき、世界最古のアリが真社会性を有していた可能性についても議論した。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルスや国際情勢の影響もあり、一部の調査活動や国際共同研究について見直しを迫られることとなった。とはいえ、既に在宅ワークでかなりの研究活動を行えるよう体制を整えたことに加え、分散投資のように多数の国際プロジェクトを立ち上げていたこともあり、結果的には上述のように14編もの投稿論文を発表することができた。そして、化石形態から系統学的な考察を行うという、当初の申請書に記載した通りの成果が得られたことで、本研究の目的を部分的に達成することができた。また、投稿中の論文が4編あり、それらに加えて投稿直前の原稿も複数あることから、最終年度となる翌年度も着実に成果を出せる見込みである。以上を考慮して、概ね順調に研究が進展しているものと判断した。
新型コロナウイルスの影響が翌年度も継続することと仮定し、特に海外への調査が出来ないことを前提とした研究計画を立てている。また、基本的には在宅ワークを中心とし、数回程度の短い国内における調査を実施することを予定している。手元には既に十分な琥珀サンプルがあることから、今年度までに予備的な研究を実施しているものがいくつかある。最終年度ではそれらを論文化することを主要な目的としたい。とりわけ、エンマムシ科やハネカクシ科を中心とした甲虫目において複数の異なる研究を行い、可能であれば論文化まで行いたいと考えている。詳しい内容については差し控えるが、系統分類だけでなく、比較形態や形態進化などの観点においても興味深い成果が得られる見通しとなっている。また、系統解析に化石の形態情報を入れ込むことで、絶滅分類群の系統位置をダイレクトに模索していきたい。加えて、国際共同研究も相当数を展開しており、徐々に結果が出つつある。残念ながら、目下、新型コロナウイルスや政治情勢等により種々の国際的な混乱の影響を受けているが、状況を見極めつつ可能な限り、海外の研究者と行っている研究成果の公表も目指したい。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 9件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (4件)
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