本研究の目的は、捕食性線虫Seinura cavernaにおいて共食い回避を制御する神経細胞を同定することである。S. cavernaを含め、Aphelenchoididae科の神経構造は明らかになっていないため、神経染色剤DiOを用いて神経細胞の蛍光染色および構造理解に努めた。その結果、5対の神経細胞の蛍光染色に成功した。次に、これら神経細胞をレーザーアブレーションシステムで破壊し、共食い行動の観察を行った。しかしながら、捕食性線虫特有の培養の困難さのため、適切な実験系を構築することが困難であった。そこで、同じくAphelenchoididae科に属し、培養が容易なマツノザイセンチュウにおいて、神経構造を理解し、行動解析系を確立することを新たな目的とした。 まず、S. cavernaと同様に、マツノザイセンチュウにおいても神経蛍光染色を試み、4対の神経細胞を染色した。この情報をもとに、微分干渉顕微鏡下で19対の神経細胞の配置を理解した。これら神経細胞を3つのクラスターに分け、クラスターごとに破壊し、行動解析を行った。行動解析は、モデル生物C. elegansの系をもとに、物理刺激応答、化学刺激(1-octanol)応答を評価した。その結果、適切にアッセイを実施でき、C. elegansとは異なる行動制御機構の存在が示唆された。 しかし、微分干渉顕微鏡下では、神経構造の同定や詳細な位置構造の決定は不可能である。そこでマツノザイセンチュウにおいて連続超薄切片の作製し、透過型電子顕微鏡で観察することで、上記問題の克服を試みた。連続超薄切片の作製には高度な技術を要するものの、400枚を超える連続超薄切片の作製に成功した(一部3枚以下の切片の欠損あり)。また、実際に神経細胞の樹状突起の追跡に一部成功し、各神経細胞が属する感覚器官を決定できると考えられる。今後はこの技術をもとに、マツノザイセンチュウ幼虫、雄、雌において神経構造の把握に努める。
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