昨年度に引き続き、マツノザイセンチュウにおいて神経細胞の観察を行った。加えて、マツノザイセンチュウの近縁種であるオキナワザイセンチュウにおいても神経細胞の観察を行った。両種の成虫の頭部において連続超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡で観察・撮影した。得られた連続写真をアライメントし、神経細胞の樹状突起に三次元再構成を行い、感覚ニューロンの同定を行った。その結果、マツノザイセンチュウにおいては、C. elegansには存在しない感覚ニューロン (以下、五型ニューロン) が存在することが明らかになった。これは、同じくTylenchomorphaに属する植物寄生性線虫ネコブセンチュウやシストセンチュウにも存在することが報告されている一方で、Tylenchomorpha以外の線虫種では、一例も報告がない。このことから、五型ニューロンはTylenchomorphaを特徴づけるニューロンであると考えられた。 五型ニューロンの形態的特徴を三次元再構成像から捉えたところ、先端は二股に分岐していることが明らかになった。先行研究で述べられていた、樹状突起が頭部先端まで伸長していること、その先端はクチクラに埋没しているとの特徴も踏まえると、本ニューロンは物理感覚器として機能している可能性が考えられた。Tylenchomorphaは他の線虫種と異なり、糸状菌や植物細胞を口針を使用して摂食する。摂食の開始時に口器を餌に押し当てる行動が観察されることから、五型ニューロンは餌の物理的特性を認識する上で役割を果たしていると考えられた。
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