研究課題/領域番号 |
20J00207
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
肥後 時尚 金沢大学, 新学術創成研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 古代エジプト / 葬祭文学 / 「コフィン・テキスト」 / 「死者の書」 / マアト |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、古代エジプトの葬祭文学研究を以下の通りに実施した。 ① 複合的な研究アプローチの基盤構築 本研究課題の研究手法である文献学・考古学的な葬祭文学の研究手法を具体的な研究事例を用いて実践し、その有効性を確認した。「コフィン・テキスト」に対する文献学・考古学の複合研究の必要性は当該分野の研究者によって度々強調される一方で、具体的な研究手法は確立されていない状況にある。この問題意識を受け、今年度の研究では金沢大学を拠点として受入研究者である河合望教授の指導のもとでエジプト考古学の基本的な学理と知見の理解を深め、本研究アプローチの具体的な内容を模索した。そして、実際に一部の「コフィン・テキスト」の呪文と木棺資料のもつ考古学的な情報に注目し、考察することで複合的な研究の有効性を示し、その成果を日本西洋史学会第70回大会で発表した。 ② 葬祭文学の研究 本研究の研究対象である「コフィン・テキスト」を含む葬祭文学の理解の深化を目指し、本年度の研究では新王国時代の「死者の書」が示す最も明白かつ重要な主題である「死者の裁判」の概念が、エジプト史においてどのように発展したかを考察した。その結果として、死者の裁判の概念の萌芽が「コフィン・テキスト」や「ピラミッド・テキスト」といった前時代の葬祭文学にも確認され、古代エジプト人の「死者の裁判」が長い時代を経て段階的に具体化された観念である可能性を提示した。また、「死者の裁判」において重要な役割を担った「二柱のマアト」と呼ばれる神々の特徴の検討を行い、葬祭文学に登場する「二柱のマアト」の問題点を明確化した。また、これらの研究の成果は、CISMOR主催の中東研究会および日本オリエント学会の第62回大会で公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由から、本年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。 文献学と考古学の複合的な葬祭文学研究を目指す本研究の実現を目的とし、初年度の研究では金沢大学を拠点として本研究課題に必要なエジプト考古学の学理と知見の理解を深化させた。受入研究者の指導の下、近年の考古学の成果や古代エジプト文化史研究における考古学的な研究手法の有効性を主体的に学び、本研究への具体的な形での応用を目指した。そして、その成果を第70回日本西洋史学会大会での研究発表「「古代エジプトの「コフィン・テキスト」の研究:文献学・考古学的アプローチから」」で公表し、本研究の根幹部分である複合的な研究の方法論の基礎を確立した。 その一方で、新型コロナウィルスの影響による渡航制限を受け海外の研究機関での調査研究を前提とする研究が実施不可能となり、期待通りの進展が望めなかった点も残った。特にオランダ、ライデン大学近東研究所で実施する予定であった木棺資料のアーカイブ資料調査は、木棺資料のもつ考古学的情報や文字の書体、呪文の配列を考察するうえで本研究課題の遂行に不可欠な研究である。そのため、2年目以降の研究では、渡航状況が改善され次第海外における研究調査を速やかかつ長期間にわたって実施する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの影響を受け、2020年度の海外における調査研究が実施不可であったことから、2021年度(2年目)以降の計画では渡航状況が改善され次第、海外における研究調査を速やかかつ長期間にわたって実施する必要がある。 ただし、状況が改善されない点も考慮し、渡航が不可能と判断した場合には、実地での資料調査を必須としない文献学を中心とする研究に重点を置き、考古学的情報を補足的に用いる研究手法への移行を検討する。同時に、国内で検討可能な「コフィン・テキスト」と異なる葬祭文学(「ピラミッド・テキスト」、「死者の書」)を対象とした文献学的な研究を遂行し、葬祭文学の時代的変遷という別の研究視点から古代エジプトの葬祭思想の理解の深化を目指す。また、当初の計画において研究に関する議論を予定していたオランダ、ライデン大学の研究者とはメールやビデオ会議(Zoom)を通した意見交換を実施する。
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