研究実績の概要 |
文献学・考古学的な視点から古代エジプトの葬祭文学の内容理解の深化を目指す本研究課題の最終年度の研究として、これまでの研究成果の発信に加え、『コフィン・テキスト』と密接な関係にある『死者の書』の理解を目指す研究を推し進めた。 本研究課題の主たる分析対象である『コフィン・テキスト』に記述された呪文の内容を呪文が記された木棺資料の出土地や編年と組み合わせて分析することで、呪文第1034章のような特定の地域の木棺にのみ記述される呪文の地域性を理解し、同呪文に登場する「二柱のマアト」と呼ばれる特殊な神々の特徴を新たに明らかにした。 また、『コフィン・テキスト』や『死者の書』をはじめとする葬祭文学において重要な役割を果たした「二柱のマアト」の性格や時代によって異なる側面を解明し、その成果をAmerican Research Center in Egypt, 73th Annual Meetingや日本オリエント学会をはじめとする国内外の学会で発表した。さらに、本研究課題において実践した文献学・考古学的な研究視点に基づく『コフィン・テキスト』の研究手法を『死者の書』の史料分析に応用した。制作地・制作年代の理解に基づく複数の『死者の書』の写本の分析・比較を通して、同史料の呪文第125章における「無罪の宣言」の場面の内容が、呪文が記述される最初期の段階から多様性に富むことを明らかにした。これにより、従来支持されてきた「無罪の宣言」の内容に変化が生じないとする言説に対する新たな見解を示した。
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