本研究課題は、未開拓な生態系である水生植物―微生物共生系の成立機構を科学的に解明することで、水生植物を用いた環境技術の高度化・多様化に貢献することを目的としている。昨年度、ウキクサと7種の菌株からなる「モデル共生系」を作成し、安定性と再現性を兼ね備えた研究材料として確立することができた。今年度は、このモデル共生系における微生物の種間相互作用について数理解析と遺伝子解析という2つのアプローチから検討を行い、群集構造の安定化機構を考察した。 数理解析においては、7菌株の全ての組み合わせ(127通り)の試験によって取得した群集構造データを数理モデルを用いて解析した。結果、4~7種の組み合わせが作り上げる群集の構造を、3種以下の組み合わせが作る群集構造のデータから定量的に予測する数理モデルの開発に成功し、本生態系の群集構造が3種間の相互作用によって説明できることを明らかにした。 遺伝子発現解析においては、6菌株からなるモデル共生系を実験対象とし、各構成種のウキクサ表面における遺伝子発現を、(1)単独条件、(2)2種共存条件、(3)全6種の共存条件のそれぞれにおいて解析した。また、得られた結果はウキクサ表面における種間相互作用と照らし合わせることで解析を行い、種間相互作用による影響と統計学的有意な関連が見られる遺伝子を多数同定した。今後、これらの解析で浮かび上がった遺伝子群について遺伝子破壊株を用いた検討を行うことで、安定した共生細菌群集の形成において鍵となる遺伝的要因が解明されるものと期待される。
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