研究課題/領域番号 |
20J00219
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
楠見 友輔 立教大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 創造性 / ニュー・マテリアリズム / ポスト・ヒューマニズム / 主体性 / 質的研究 |
研究実績の概要 |
【研究の内容】学際的領域において近年注目されている、人間の概念の創造を理論の中心に据えるニュー・マテリアリズムを、日本の心理学・教育学研究に位置づけることを試みた。ニュー・マテリアリズムの立場から授業研究を行う上での土台を構築することができた。 【調査】①ニュー・マテリアリズムやそれに関連する立場から書かれた文献と論文を講読した。上記の文献や論文を検討する勉強会の事務局を務め、2020年4月から毎月研究会を開催した。②日本における創造性研究の系譜を明らかにするために、J-stageに掲載されている心理学・教育学領域における創造性をキーワードとする論文を講読した。③教育実践における教師の創造の過程を明らかにするために、知的障害特別支援学校の教師8名に対して、教材づくりにおける思考過程を尋ねるインタビューを実施した。 【研究の成果】①の結果として、ニュー・マテリアリズムによる教育研究の意義を、教育実践における物と人間の主体性の関係に焦点を当てて論じた理論研究を執筆し、『教育方法学研究』の46巻に掲載された。日本においてニュー・マテリアリズムの立場から書かれた先行研究は殆ど存在せず、本論文は日本の教育学内外における大きなインパクトを有する。更に、ニュー・マテリアリズムの立場から、知的障害児の生活・数学の授業における学習をとらえ直す研究を行い、世界授業研究学会(WALS)と日本発達心理学会でそれぞれの研究結果の発表を行った。②の結果として、日本において創造性研究は、少数のグループ内でなされており、未だ研究フレームを模索する初期段階にあるということを明らかにした。本結果は、日本教育心理学会で発表した。③の結果は、3月末までに分析が終了し、現在、国際雑誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、日本の創造性研究の動向の整理と、ニュー・マテリアリズムの立場からの創造性研究の理論的土台を構築することができた。これまで殆ど日本において紹介されてこなかった、ニュー・マテリアリズムの立場から書かれた理論研究を国内雑誌に掲載することができたことは、大きな成果である。調査としては、知的障害特別支援学校の教師のインタビューデータを収集し、分析と論文執筆も順調に進んでいる。 ただし、新型コロナウイルスの影響によって当初予定していた学校におけるフィールドワークが困難な状況が1年続き、子どもの授業における創造性を分析する研究のための調査が進んでいない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、①教育研究におけるニュー・マテリアリズムの可能性についての理論研究、②教師の教育実践における創造性の研究、③授業における子どもの創造過程の研究、の三点から研究を進めていく予定である。 ①について、2020年度に公表した「ニュー・マテリアリズムによる教育研究の可能性:物と人間の関係に焦点を当てて」『教育方法学研究46巻』では議論しなかった、子どもの創造過程に注目した理論研究を執筆する。②について、2020年度に実施した知的障害特別支援学校の教師を対象としたインタビュー調査をもとにした研究が2021年度中に採択されることを目指す。ニュー・マテリアリズムは国際的にも新しいアプローチであるため、掲載されることによる教育学へのインパクトは大きいと考えられるが、査読者との慎重なコミュニケーションや執筆の仕方を工夫する努力が求められる。③について、高校生の数学の学習における知識の創造過程を明らかにするために、高等学校におけるフィールドワークを予定している。ただし、新型コロナウイルスの影響を受けて調査が中断している状態である。2021年4月現在の社会状況を考慮すると、本調査の実施は早くても9月以降になると予測している。そのため、2021年度の前期には①と②を中心に研究を進める。同時に、③の調査の2021年度中の可否をなるべく早く判断し、困難度考えられた場合には、リモート環境を生かした調査に切り替えるようにする。2021年度の学会発表として、現在までに世界教育学会(WERA)のオンライン大会への参加(査読つき)が決定している。また、いくつかの国内学会において、ニュー・マテリアリズムの立場による教育研究の可能性について議論を行うシンポジウムを行う予定である。
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