研究課題/領域番号 |
20J00270
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
平岡 大樹 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 乳児の泣き / 養育行動 / fMRI / 縦断研究 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に縦断的に実施している研究の継続的な実施を行った。本研究では、産後の母親の泣き声についての心理・神経反応の個人内変化を調べるために、初産の母親を対象に、産後2か月、8か月、1年2か月の3時点で、MRI内での課題およびパソコンを使った心理課題を行っている。また、その分子生物学的な基盤を検討するために、唾液からDNAメチル化データを解析し、各時点の泣き声刺激に対する反応や、その変化との関連を検討することを目的としている。 2年目となる今年度では、1時点目の50名の母親からMRIデータ、心理課題得点、および唾液の取得を完了し、さらに2時点目32名、3時点目10名からもデータを取得した。1時点目の唾液はDNAの抽出を行い、マイクロアレイを用いてエピゲノムワイドなDNAメチル化レベルの取得も完了した。本研究の最終的な目標は、前述のとおり母親の泣き声に対する反応の変化を明らかにすることであるが、まず各時点での横断的な変数間の関連性を知ることも重要であると考え、複数の観点から関連性を解析した。 上記の横断的解析の解析結果を、国内外の学会・研究会で発表を行った。具体的には、日本赤ちゃん学会第21回学術集会にて、母親の泣き声に対する注意バイアスの存在について結果を報告した。また、日本心理学会第85回大会およびOrganization for Human Brain Mapping2021にて、母親の共感性と泣き声刺激に対する反応性の関連についての結果を報告した。 また、本研究実施前に、予備的調査として母親が泣き声に対して持つ信念を縦断的に質問紙で測定し、その変化を明らかにした研究を実施していたが、その成果がFrontiers in Psychology誌に受理・掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は産後の母親を対象とした縦断的なfMRI実験のデータ収集を肝としており、1時点目の参加タイミングの統制や、その後の継続した実験への参加を必要としている。新型コロナウイルス感染拡大状況の中、最大限の注意・対策を行いながら、実験の実施を継続できた点について、順調に進展していると評価できる。 また、本縦断研究は来年度も継続して実施予定であるものの、現時点で既に得られたデータの解析にも着手し、産後2ヶ月時点の泣き声に対する母親の注意・脳活動と、共感性および産後うつ傾向との関連を見出した。その成果の一部を国内学会で2報、海外学会で1報報告し、さらに本研究に先んじて実施した予備的調査研究を英語論文として発表しており、実験の実施と成果の報告を順調なサイクルで進めていると言える。 さらに、本研究課題には脳画像イメージングおよびDNAメチル化の解析技術を必要としているが、その習得も行った。具体的には、安静時脳機能画像および拡散強調画像解析の手法を習得し、マルトリートメントを受けた子どもと比較群との脳の神経線維の走行状態や安静時の脳内ネットワークの群間差を解析した(Nishitani、 Hiraoka et al.、 2021、 Translational Psychiatry)。来年度縦断的なデータ取得が完了した後、速やかに解析を実行できる状況が整っており、課題が順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、当該の縦断的調査を継続する。具体的には、現在1時点目は50名全ての参加者からデータ取得を完了しており、その参加者を対象に、半年毎に2時点目、3時点目のリクルーティングを行う。課題内容は各時点において同一であり、乳児の泣き声および統制音を聴取するfMRI課題、脳構造画像の撮像、および乳児の泣き声を妨害刺激として用いたストループ課題を行う。併せて、個人のデモグラフィック変数や個人特性を測定する質問紙への回答を求め、唾液の採取を実施する。唾液からはDNAを抽出し、マイクロアレイを用いてDNAメチル化レベルの解析を行う。 次年度は最終年度となるため、2時点目および3時点目のすべてのデータ取得を完了する予定である。さらに、現在1時点目の唾液からDNAメチル化レベルの解析が終了しているが、3時点目までの唾液が入手できた時点で、速やかに解析を実施し、DNAメチル化レベルデータを入手する。その後、母親の脳構造、泣き声を聴取中の脳機能、およびDNAメチル化レベルの縦断的な変化について分析を行い、各時点間の変化やその変化を調整する変数について解析を行う。 次年度は現時点で得られた横断データの中から、DNAメチル化レベルと泣き声を聴取中の脳機能の関連性について学会発表を行う予定である。さらに、1時点目と2時点目の脳構造および脳機能の差についても、学会にて発表を予定している。全てのデータ解析が完了した際には、上記の結果を論文としてまとめ、国際誌に投稿することを予定している。
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