研究課題/領域番号 |
20J00282
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西村 慎之介 九州大学, 先導物質化学研究所, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 中間水 / 水和状態 / 抗血栓性 / 末端基効果 |
研究実績の概要 |
本年は、中間水を形成する代表的な非水溶性高分子であるポリ(2-メトキシエチルアクリレート) (PMEA)を採用した新規機能材料開発を行った。人工心肺装置(ECMO)のコーティングとして利用されているPMEAは優れた抗血栓性を有するが、コーティング特性が低く適用可能な基材がごく一部に限られていた。また、コーティング特性が低いことに起因する基板からの剥離が水中においても経時的に起こるため、最大使用時間が8時間程度という制約もある。そこで、ケイ素を主成分とする無機高分子でシルセスキオキサンとPMEAの共有結合を介したハイブリッド化をチオール開始重合により試みた。この合成方法は安価かつ大スケールで行うことができ、最終的な製品化を指向したものである。本課題の達成によりコーティング特性が劇的に改善され、これまでに塗布が難しかったガラスやステンレスなどの基材も安定にコーティングすることが可能となった。 また、これと並行して直鎖PMEAと環状PMEAを精密重合法により合成し、ポリマーの末端が水和状態に及ぼす影響についても詳細に検討した。熱量分析より、純水中において当該PMEAは環化させたもののほうが多量の中間水を形成することがわかった。一方で、塩存在下では逆転し、環状PMEAのほうが中間水量が減少した。これは、環状PMEAがナノ空間が塩の存在により収縮したため、また浸透圧効果によってナノ空間に閉じ込められた水が排斥されたためであることが明らかとなった。これらの結果は、分子量や分子量分布が全く同じポリマーであっても、末端の有無により中間水量が変化するといったことを示している。化学構造のみならず、分子そのものの構造を巧みに設計することで水和状態を自在に制御できる事実を示したものであり、この研究成果は本研究課題の最大の目的である中間水形成の自在制御の実現に大きく貢献するであろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該ポリマーはシルセスキオキサンの含有量を変えることで中間水の量も自在に変えることが可能であった。 この中間水量を適切に調製することで、従来のPMEAに勝るとも劣らない極めて高い抗血栓性を実現することができた。また、このときの当該ポリマー表面は血管内皮細胞の接着をPMEA表面の十数倍促進させることもわかっており、接着細胞の内皮性も十分に活性であったことから、実使用環境においても長期間使用できると考えられる。医療デバイスの長寿命化を強力にサポートするものであり、CPVID-19の蔓延により昨今問題となっているECMO不足の解消にも大きく貢献する優れた研究成果である。事実、2020年にACS Appl. Polym. Mater.に発表した論文はその巻の表紙に選ばれている。水和構造も従来型PMEAとやや異なることが分かりつつあり、本研究の最大の目標である中間水制御による生体機能発現に着実に近づきつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は材料開発と機能評価に重きを置いた研究の進め方を行った。より学理を追求するため、放射光分光や原子間力顕微鏡を用いたポリマー/水界面におけるダイナミクスについて検討を進めていく予定である。また、究極のバイオマテリアルとしての分子設計を確立することを目的としているため、機械学習などを取り入れる必要もあるだろう。
|