本研究は、健康長寿社会の実現のために必要となる医療機器材料の基盤技術の構築を目指したものである。当該年度は水和状態が医療機器表面の生体親和性に大きく関与していることを念頭に、水和水の運動性を自在に変化させられる新規高分子の開発を行った。ピロリドン環を側鎖に有するこの高分子は、側鎖の長さを調整することで、生体温度において液液相分離を引き起こす。すなわち、流動性のある疎水性場を自在に作り出すことが可能であり、有望な薬物輸送担体となり得る。また、側鎖の炭素数が2と6の本モノマーを共重合させることで、水が液体として存在する温度域 (0-100 ℃)の間で、幅広くかつ精密に下限臨界溶液温度 (LCST) を制御できることも明らかとなった。LCSTのテーラーメイドすることができれば、目的に応じて親水性/疎水性を自在にスイッチ可能なスマート高分子材料となりうる。本高分子は高い血液適合性と細胞親和性を有することも明らかとなっており、バイオマテリアルとしてのポテンシャルも高い。LCSTが高分子と水間の相互作用であることに着目すると、応答温度が異なるということは水和状態が異なっていると考えることができる。本ポリマー系を用いることで、目的に応じた水和状態を自在に作り出すことが可能と言えよう。 以上の研究成果は、本研究課題の最大の目的である水和状態の自在制御の実現に大きい貢献するものであり、新しいバイオマテリアル設計指針となりうる。
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