日本全国の第四紀火山を46地域を対象に空中写真で湿地(湖沼・湿原)を判読し,GISソフトウェアを用いて湿地のデータベース化を進めてきた.データベースには位置や面積を記録するのみならず,周辺地形場の状況から湿地の成因を推定して類型化し,既存研究で報告された形成年代もまとめている.まだ湿地の形成環境や形成年代の傾向を把握するには至っておらず,今後も作業を継続していく. 苗場山と八幡平にて湿地堆積物の掘削調査を実施した.苗場山は日本屈指の多雪山地で山頂の平坦地(苗場山山頂湿原)だけでなく,低標高域の溶岩台地上(小松原湿原)にも湿地群が形成されている.泥炭層基底部の放射性炭素年代測定の結果から,山頂湿原の標高2000 m以上の平坦地では約5000年前に湿地が形成され,標高1900 mの傾斜地に位置する湿地は約1600年前に形成されたことが明らかとなった.一方で,小松原湿原の3湿地での泥炭層基底部の堆積年代は,標高の高い方から約2000年前,約700年前,約3000年前だった.これらの湿地形成時期を,既存研究で明らかにされている気候の温暖/寒冷時期と比較したが,湿原の形成開始時期と気候変動との明瞭な関係は見いだせなかった.今後,湿地縁辺部での泥炭層基底年代も分析し,湿地の拡大/縮小の傾向も合わせて気候変動との関係を検討していく.八幡平のベコ谷地湿原は秋田焼山山麓部の地すべり性湿地である.堆積物分析結果から,ベコ谷地は5000年前以前の地すべり活動で形成された凹地が湛水して湖沼になった後,徐々に水深が浅くなり,約1700年前には現在の湿原に遷移したことが明らかとなった.八幡平の他の地すべり性湿地と同様に,湖沼から湿原へと遷移する陸化型湿原の特徴を有していた.また,形成時期や遷移時期が他の地すべり性湿地と異なるのは,地形変化の影響を受けるためという既存研究の指摘を支持する結果となった.
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