研究課題/領域番号 |
20J00325
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐々木 遼 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 量子情報 / 量子変換器 / 音響光学変調器 / フォノン / 超伝導量子ビット / 表面弾性波 / 量子ハイブリッド |
研究実績の概要 |
本研究では低温下で動作する超伝導量子ビットと光ネットワークの間で、量子的な状態を保持したままで変換が可能な高効率な量子変換器の開発を目指している。特に本研究では超伝導量子ビットと同じくマイクロ波領域で動作する音波(フォノン)を介した変換器の開発を対象としている。超伝導量子ビットの状態をフォノンに転写し、そのフォノンを共振器中で光と強く結合させることで変換器として動作する。 本年度は、高効率な変換器を実現するための新たなフォノン共振器の開発を行った。フォノンと光との間の結合を強くするためにはフォノンのモードの広がりを抑え、小さい領域で光と結合させることが望ましい。我々はフォノン共振器として損失の少ない表面弾性波共振器の応用を目指しているが、従来の表面弾性波共振器の構造では単純にデバイスの大きさをスケールダウンすると波の回折現象によりモードが広がってしまい、モード体積の極小化と低損失性を両立できない。そこで我々は光共振器中のガウシアンビームとの類推からガウシアンビーム型の表面弾性波共振器の開発を行った。これにより音波の波面が集束したモードをもつ共振器を作製することができ、その焦点に当たる部分で波面に垂直方向のモードの広がりを波長程度に抑えながら、従来の共振器と同等の低損失性を達成することができた。 デバイス中のフォノンのモード体積を更に小さくするため、さらに薄膜材料を用いたフォノン共振器の開発も行った。上述の表面弾性波共振器では波長程度に深さ方向にモードが広がってしまうが、波長以下の厚みをもつ薄膜材料を用いることでよりモード体積を小さくできる。我々はニオブ酸リチウムというフォノンと光との結合の大きい材料の薄膜上にフォノン共振器を作製し、低温下において共振ピークの観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はフォノン共振器の作製、その評価のための光学系の構築、圧電デバイスシミュレーション環境の構築を行った。 最終的には薄膜材料を用いたガウシアンビーム型のフォノン共振器の作製を見ざしている。本年度においてはそのベースとなるバルク材料を用いたガウシアンビーム型の表面弾性波共振器を作製し、モードの極小化に取り組んだ。モードの広がりをどれほど抑えてられているかを評価するために新たに光学イメージング系を立ち上げ、デバイス上でのフォノンモードの分布を実空間で観測できるようになった。この系を用いた評価により従来のデバイスと同様の低損失性を保ちながら、共振器中心部分において従来と比較して10分の1から20分の1程度にモードを小さくすることができた。また圧電薄膜材料を用いたフォノン共振器デバイスの作製方法を開発し、その評価を行うことができた。 またデバイス構造の最適化や材料の結晶方位の最適化を行うために、新たに有限要素シミュレーションを用いた理論計算を行う環境を整えた。薄膜材料ではバルク材料とはフォノンの特性がその構造に依存して変化するために、デバイス作製の前にシミュレーションによってその素性を予測しておくことが有効である。作製する予定のデバイスの共振周波数や適切な結晶方位、構造の最適化を予め計算することができるようになり効率的にデバイス作製を行うことができるようになった。 これらの理由から進捗状況はおおむね順調だと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は低温下におけるマイクロ波‐光変換実験の実行を目標とする。 前年度までで構築した技術を用いて圧電薄膜を用いたガウシアンビーム型のフォノン共振器を作製する。シミュレーションと組み合わせながら低損失かつモードの極小化が達成できるようなデバイス構造の最適化を行う。デバイスを極低温化において熱散逸の抑制と電極の超伝導化を行いった上でそのQ値を評価し、デバイスの構造依存性を明らかにする。極小化と高Q値を両立可能な最適な構造を明らかにする。 上で作製したガウシアンビーム型のフォノン共振器の焦点部分に光導波路・光共振器を作製することでフォノンと光の結合系を実現する。光共振器はフォノニック結晶中の欠陥モードを利用し、フォノンの波長程度にモード体積を小さくしてフォノンと結合させる。光共振器をフォノンによって振動させることで実効的な屈折率を変調し、光とパラメトリックに結合させ、マイクロ波と光の間の変換器を実現する。この変換器を用いてまず室温下で変換実験を行い、その変換効率を測定する。 またこのデバイスを用いて希釈冷凍機の低温環境下で変換実験を行う。低温環境下での変換実験が可能にする光学系を希釈冷凍機内に導入する。低温環境下でのチップと光ファイバ間の高効率な変換が可能になるようにチップ上にグレーティングカプラをを作製し、デバイスに光信号を導入する。この系を用いて低温下での変換実験を行いその変換効率を測定する。実験結果からフィードバックして、高効率な変換が可能なデバイス構造の最適化を行う。
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