細菌の運動器官の一つであるべん毛は、回転するモーターをもつ超分子複合体である。モーターは自身が回転する「回転子」と回転子の周りに集合しイオンチャネルとして機能する「固定子」の2種類の複合体から成る。モーターの回転は、固定子への共役イオンの流入とカップルした回転子と固定子の相互作用により、膜内外に形成される電気化学ポテンシャルが運動エネルギーに変換されることで生じる。固定子は、5分子のA(PomA)と2分子のB(PomB)のサブユニットからなる膜貫通タンパク質複合体である。その構造はクライオ条件下での単粒子解析により明らかになっているが、エネルギー変換の際の複合体の構造変化や共役イオンの通り道は未だによくわかっていない。本研究では、これらを明らかにするため、クライオ条件での単粒子解析と溶液核磁気共鳴法(NMR)によりにNa+チャネルである海洋性ビブリオ菌の固定子複合体[PomAPomB]の構造情報を取得と、申請者のこれらの手法の習熟を目的としていた。 3年間の研究により、単粒子解析では、複合体の近原子分解能のクライオマップを構築し、モデル構造の構築と精密化ができた。溶液NMRでの解析では、複合体試料の測定を行ったところ、Na+濃度に依存したスペクトルの変化が見られた。これらの結果を基にして、共役イオンが固定子複合体をどのように通ることにより、回転子を回転させるのかに関して論文の執筆を進めている。これらの成果から、申請者はクライオ条件での単粒子解析と溶液NMRによる構造解析技術を習得できた。 また関連した研究として、高度好熱菌の固定子Aサブユニット(MotA)複合体の単粒子解析では、MotAのみで5量体を形成する内容を論文にまとめ、受理された。回転子を構成するタンパク質の一つであるFliGの溶液NMR解析の内容は論文を投稿し、リバイスが帰ってきており対応を進めている。
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