研究課題/領域番号 |
20J00334
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
樋口 裕美子 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 植物-動物相互作用 / 葉形 / 植物加工昆虫 / 斑 / オトシブミ科 / 寄主植物 / 行動解析 |
研究実績の概要 |
生物間相互作用であまり着目されない葉の形や色などの個葉レベルの形態形質について、葉を摂食する植食者に対する影響を明らかにするため、1.葉を加工するオトシブミ科昆虫に対する葉の形、2.視覚を利用する植食者に対するカタクリの葉の斑の影響について研究を進めている。本年度は主に一つ目のテーマについて研究を行った。 まず、葉を一枚用いて葉巻を作るオトシブミに対する切れ込み葉による加工阻害現象について、ムツモンオトシブミとその寄主植物で葉先が切れこんでいるシソ科ヤマハッカ属草本ハクサンカメバヒキオコシを対象に、阻害メカニズムを明らかにするべく、室内で葉の形状を人為的に操作した処理葉を供試し、成虫の行動を記録した。その結果、葉の形状が単純になるほど加工の初期段階である踏査が成功しやすくなる可能性が示された。 次に、ハクサンカメバヒキオコシと類似した葉形を示すイラクサ科草本のアカソとそれを利用するヒメコブオトシブミについて研究を行った。その結果、アカソではヒメコブオトシブミは葉形に応じて2タイプの揺籃を異なる方法によって作成しており、それにより切れ込んだ葉形にも対応できることがわかった。この結果は類似した葉形でも昆虫と植物の相互作用によって葉形が与える効果は異なっていることを意味しており、葉の形状が昆虫と植物の相互作用に複雑に関与していることを示している。 また、葉を一枚丸ごと巻く以外にも多様な加工様式を示すオトシブミ科昆虫に対し、加工様式や植物の利用部位に応じて葉形がどのような影響を与えるのか明らかにするため、日本産オトシブミ科昆虫の寄主植物リスト作成に取り組んだ。その結果、170本以上の文献調査から800弱の昆虫種と植物種の組み合わせのデータが得られた。今後はこのリストをもとに寄主植物の葉形データを収集し、葉形と加工様式にどのような関係がみられるのか解析をすすめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症の影響もあり、本来春先に行うはずであった2つ目の研究テーマであるカタクリ草本の葉にみられる斑による被食抑制効果についてはほとんど研究を進められていない。また、オトシブミの切れ込み葉による踏査阻害メカニズムについては、結果にある程度の傾向はみられたもの、葉の形状を変える処理の方法や結果の解析方法に関してはデータの拡充とともに再検討が必要である。加えて、寄主植物の葉形と加工様式の関係についても、本年度中にオトシブミ科昆虫や寄主植物の分類や系統の効果を考慮して予備的な解析を行う予定であったが、寄主植物のデータ収集までにとどまっている。 一方、ヒメコブオトシブミとアカソの関係については、当初は切れ込みをもたないイラクサ科草本であるカラムシとの種間の寄主利用関係を調べる予定であったが、アカソのなかでもヒメコブオトシブミが葉形に応じて2種類の揺籃を作成することが分かったため、当初の予定とは異なるものの、結果的には葉形と昆虫による植物加工の関係について新たな興味深い知見が得られたと考えており、成果を学術論文にまとめ国際誌に投稿している。 これらのことから、本研究課題の進捗は遅れているがある程度の進展はみられたものとして、総合的に「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
オトシブミの切れ込み葉による踏査阻害メカニズムについては、供試する処理葉に工夫を加えるとともに、踏査経路のトラッキング解析を行い、成功した踏査と失敗した踏査について踏査内容の違いを定量的に明らかにする。また、昆虫と植物の飼育系を構築し迅速に実験を行えるよう尽力する。 寄主植物の葉形とオトシブミの加工様式の関係については、引き続き文献調査を行いデータの拡充を進める。加えて、オトシブミ各種の体サイズや揺籃サイズ、寄主植物の葉形データの収集を行い、分類や系統を考慮した比較を進めていく。 また、カタクリ葉にみられる斑とそれを視覚的に利用する植食者の関係については、植物標本から葉の斑の有無やその地理的傾向を調べることは難しいことが判明したため、別途植食者の生息密度の異なる複数地点での野外調査から集団内の斑入り葉の程度と被食率の調査を行う必要がある。同時に、カタクリ葉の反射スペクトルはすでに測定してあるため、植食者の色覚を考慮して斑入り葉の見え方や背景からの識別性を明らかにしていく。
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