植物の葉の色や形は植物種や生育段階、環境によって様々に変化する。本研究では、こうした葉の「みため」の違いが植物を食害する植食者に対してどのような応答を引き起こし、生物間相互作用に影響を及ぼしているのか検討している。本年度は、次のような研究を行った。 1.切れ込み葉によるオトシブミの踏査阻害機構解明に向け、ムツモンオトシブミとシソ科ヤマハッカ属の室内飼育に取り組み、累代飼育に成功した。また、踏査行動をより正確に定量するために撮影方法の改良を行った。 2.昨年度行ったヒメコブオトシブミとアカソに関する研究が国際学術誌に受理、出版された。 3.昨年度に引き続き、文献調査と野外調査から寄主植物リストを拡充した。国内複数地点での調査から、新しい寄主利用の知見が複数得られた。このリストを用いて葉形と加工様式の関係を検討した。本年度の解析では、利用する植物分類群の影響が大きく、加工様式間で利用する葉形に違いはみられなかった。今後、葉形の定量方法や解析方法を改善して、再検討を行う。 4.3を踏まえ、葉の切れ込み程度の差が著しいムクロジ科カエデ属を利用する複数のオトシブミ科昆虫に焦点を当て、野外調査と室内実験を行った。その結果、野外ではオトシブミ種によって産卵に利用するカエデ属種に違いがあるものの、幼虫は産卵利用の記録のないカエデ属種でも摂食できることがわかり、幼虫の摂食適性よりメス成虫の加工における選好性が寄主利用に影響している可能性が浮上した。 5.カタクリの斑入り葉の頻度と食害率の調査集団を追加した。昨年度までの結果と合わせると、斑入り葉の頻度と食害率は集団間で異なっており、葉に斑がほぼない集団と斑入り葉の頻度が高い集団では主な植食者が異なる可能性が食痕から推察された。斑入り葉の頻度の低い集団での調査が少ないため、今後調査集団数の増加と植食者の確認が必要である。
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