研究課題/領域番号 |
20J00337
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
今城 哉裕 東京女子医科大学, 医学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 超音波 / 血管新生 |
研究実績の概要 |
再生医療に注目が集まっており,ドナー不足が深刻な心臓の再生医療には特に期待が高い.重症患者に対しては,拍動力の強い立体心筋組織を移植する必要があり,細胞シートを積層して立体組織を形成する細胞シート工学が注目されている.実際に,積層に応じて心筋シートの収縮が強まることが報告されている.しかし,組織が厚くなると内部の細胞の代謝が阻害され壊死を引き起こすため,立体心筋組織への血管新生が急務である.そこで,血管内皮細胞と心筋細胞を共培養したシートを積層し,心筋細胞にとって理想的な培養環境において,血管新生を促進する必要がある.このため超音波による細胞機能の制御技術を応用することで生体外における立体心筋組織への血管新生の促進手法を具現化する. このため,下記の3ステップを超音波を用いて遂行する.ステップ①超音波により培養平面上で血管内皮細胞の遊走を制御する.ステップ②血管内皮細胞と心筋細胞を共培養した状態で超音波により血管ネットワークの生成を制御する.ステップ③立体組織の血管新生を超音波により促進する.2020年度は,培養平面上に存在する細胞に対して超音波照射を行うデバイスの製作に注力した.その結果,安定的にkHz帯の超音波を細胞に照射できるデバイスを構築した.このデバイスで培養した血管内皮細胞に対して超音波を照射することで,単一細胞の遊走速度を制御できる可能性が示唆された.今後,細胞自体が元々有する遊走速度のばらつきを定量化していくことで,本結果の解釈をしていく.血管内皮細胞の遊走は血管新生に密接に関わる指標であるため,本結果は研究目標の実現可能性の高さを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,共同研究先の韓国にある延世大学(Yonsei University)においてデバイスを製作する予定であったが,コロナ禍において渡韓が不可能となってしまった.そこで,当初の設計を大幅に修正し,国内の設備において製作できるデバイスを設計した.その結果,当初の計画よりも遅れは見られる.しかしながら,状況を鑑みると十分に研究が進展したと考えている.具体的には,現時点までで製作したデバイスで培養した細胞に対して超音波を付与することで,細胞の遊走速度を制御できる可能性を明らかにした.細胞の移動は,血管新生に対して影響を及ぼす因子の一つであり,この結果は研究テーマである,超音波を用いた立体心筋組織への血管新生の促進,の研究の実現可能性の高さを示すものであると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初は韓国の延世大学においてデバイスを製作する予定であったが,コロナ禍を受けて研究計画を変更した.このために下記の3ステップを超音波を用いて遂行する.ステップ①超音波により培養平面上で血管内皮細胞の遊走を制御する.ステップ②血管内皮細胞と心筋細胞を共培養した状態で超音波により血管ネットワークの生成を制御する.ステップ③立体組織の血管新生を超音波により促進する.今後はステップ①の完遂と,ステップ②の遂行を念頭において研究をおこなう. ステップ①について:現在,超音波により細胞遊走が向上する可能性を示唆する結果が出ている.これを確実なものにし,遊走の向上を定量的に評価するため,個々の細胞の遊走能の違いを定量化する.その後,現状の結果と比較して定量分析を行い,至適な超音波の照射条件を明らかにする.さらに,超音波による遊走向上の原理を解明するため,遺伝子発現の定量を行う. ステップ②について:ステップ①において明らかにした条件を用いて,心筋細胞と血管内皮細胞の共培養組織において,超音波による血管内皮細胞のネットワーク構築を促進する.ステップ①と比較して,周辺に異なる細胞が存在する点を含め,状況が大きく異なるため,適切な超音波の条件が異なる可能性があるため,再度条件検討を行う予定である.条件の至適化を終えたあとは,遺伝子発現を定量化し,超音波によりネットワーク形成が促進された原理を解明する.さらに,超音波による副作用の有無を確認すべく,グルコース消費量,乳酸生成量,LDHの放出量を定量化し,核型の確認も行う.以上から,血管ネットワーク形成を促進した心筋細胞組織の健全性をin vitroで確認した後にin vivoにおける安全性を確認する.すなわち,血管ネットワークを構築した心筋細胞組織をヌードラットの皮下に移植して経過を観察する.
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