リソソームは多様な加水分解酵素を脂質二重膜で囲んだオルガネラであり、その内腔に細胞内の生体高分子を分解のために運び込む仕組みを広義にオートファジーと総称する。これまでのオートファジー研究は、飢餓時に細胞質に誘導される脂質二重膜が伸張して細胞質成分やオルガネラを囲み、最終的にリソソームと融合し内容物を分解する、「マクロオートファジー:狭義のオートファジー」研究が盛んに進められてきた。一方、マクロオートファジー以外の経路や、リソソームそのものが直接生体高分子を取り込む経路については、研究が立ち遅れている。 そんな中、採用者は脂肪滴内の脂質がリソソームで分解されることを発見し、その制御因子を同定し解析を進めてきた。本年度は、in vivoにおける新規脂質分解システムの役割の解明を行なった。野生型マウスおよび標的因子トランスジェニック(Tg)マウスに、高脂肪食を給餌し生活習慣病モデルを作製後、脂質代謝に関連が深い脂肪組織・血中・肝臓における中性脂肪やコレステロールなど各種脂肪含量を解析した。その結果、標的因子のTgマウスは高脂肪食を給餌しているにも関わらず、組織への脂質蓄積が減少することがわかった。 また、脂肪細胞からは様々な生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌されている。しかし、脂肪細胞の肥大化に伴い細胞にストレスが掛かると、アディポサイトカイン産生調節の破綻が生じ、マクロファージをはじめとする免疫担当細胞の浸潤が増加し慢性的な炎症が引き起こされる。そこで、高脂肪食負荷により誘導される脂肪組織へのマクロファージの浸潤・TNFαの産生量の増加・アディポサイトカイン分泌量の増加・インスリン抵抗性を検証したところ、標的因子Tgマウスにおいて顕著に改善が見られた。以上のことから、肥満による炎症応答と標的因子の関係が明らかとなり、病態生理的な新規脂質分解システムの役割を解明できたと考える。
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