研究課題/領域番号 |
20J00392
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安藤 英伍 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 気孔応答 / シロイヌナズナ / 細胞膜H+-ATPase |
研究実績の概要 |
植物の表皮に存在する気孔は、光(特に青色光および赤色光)の下で開いて光合成に必要な二酸化炭素の取り込みを促進する一方、暗黒下や二酸化炭素濃度の上昇に応じて閉鎖し、植物からの水分損失を防いでおり、気孔の開閉制御は植物の生長、生存において重要な役割を果たしている。気孔開口を駆動する孔辺細胞の細胞膜H+-ATPase (以下H+-ATPase)の活性化に重要と考えられているC末端のリン酸化制御を、光合成に起因する葉内環境の変化の観点から明らかにすることを目的とし、本年度は以下の通り研究を実施した。 1.光合成依存的なH+-ATPaseリン酸化 葉肉光合成に起因する糖が孔辺細胞のH+-ATPaseのリン酸化を誘導する可能性について、二糖スクロースの分解産物である単糖グルコースおよびフルクトースの効果を評価した。単離表皮組織を用いてスクロースによる孔辺細胞のH+-ATPaseのリン酸化を観察できる条件の下で単糖を添加する実験を行った。その結果、単糖もH+-ATPaseのリン酸化を誘導することを示唆する結果が得られた。この際の至適濃度は添加する糖によって異なることが示唆された。 2.二酸化炭素によるH+-ATPase脱リン酸化 光合成の停止に起因する葉内二酸化炭素濃度の上昇がH+-ATPaseの脱リン酸化を誘導する可能性について検証を進めた。蒸散測定装置を利用した葉への二酸化炭素処理実験、および単離表皮に対する炭酸水素ナトリウムの投与実験から、二酸化炭素が孔辺細胞のH+-ATPaseのリン酸化レベルを下げることが示された。また気孔の二酸化炭素応答に関わることが知られる因子の変異体を利用した逆遺伝学的実験結果から、H+-ATPaseの脱リン酸化は既知の二酸化炭素応答とは異なる仕組みに仲介される可能性が示唆された。現在、上記を含む研究成果を査読付き学術誌へ投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の研究実施状況に述べた二つの課題について、一つ目の課題は、今後糖代謝や輸送に着眼した実験を行うことで、孔辺細胞の糖利用に新たな知見を与える成果として発表する目途が立ったと考える。二つ目の課題に関しては論文投稿に至っている。従って、本研究はおおむね順調であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 光合成依存的なH+-ATPaseリン酸化 糖代謝や取り込みに関連した薬理学的実験を行い、孔辺細胞の糖利用とH+-ATPaseのリン酸化との関係について明らかにする。
2. 二酸化炭素によるH+-ATPase脱リン酸化 現在投稿中の論文に係る実験等 (査読対応) を行う。また、より自然に即した光環境変化に対する植物の応答を理解するための足掛かりとするべく、脱リン酸化が起こる際の光強度依存性や暗所から明所へ戻した際の気孔応答とその際の光質の影響を調査する。
|