研究課題/領域番号 |
20J00393
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
柴田 智博 信州大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 乳癌 / TNBC / YB-1 |
研究実績の概要 |
ERαやHER2などの標的分子の存在しないトリプルネガティブ乳癌(TNBC)は乳癌の他のサブタイプと比べ5年生存率が70%と依然として乳癌のサブタイプの中で最も予後不良である。TNBC患者における抗がん剤治療後の再発巣において乳癌のオンコプロテインであるYB-1の核内発現の亢進が観察されている。さらに、正常乳腺上皮細胞を用いた検討からYB-1がTNBCの発症に関わることも報告されている。TNBCの発症や予後にYB-1が関与することが示唆されるがYB-1の発現上昇や活性化メカニズム、YB-1の治療標的としての有用性は明らかにされてこなかった。 以上の背景からYB-1のTNBCにおける治療標的としての有用性を明らかにするため検討を行ったところ、本年度の検討により以下について明らかにすることができた。 [1]The Cancer Genome Atlas (TCGA)データベースを駆使した検討により、YB-1発現は乳癌のサブタイプ間で差は認められなかったが、リン酸化YB-1発現はTNBCにおいて乳癌の他のサブタイプに比べ発現が高いことを観察している。 [2]TNBC細胞株9株及びERα又はHER2陽性の乳癌細胞株7株におけるYB-1、リン酸化YB-1発現を検討した。その結果、①YB-1発現に細胞間に大きな違いは見られなかったが、TNBC細胞株においてリン酸化YB-1発現が有意に高いことが観察された。②TNBC細胞株においてERK/RSKシグナルが亢進していることが観察された。③YB-1リン酸化が亢進しているTNBC細胞株において、抗腫瘍免疫抑制因子であるPD-L1発現が亢進していた。 [3]また、TNBCの治療薬であるパクリタキセルの短時間処理によりTNBC細胞株においてYB-1のリン酸化とともにYB-1のリン酸化に関与するERK/RSKシグナルのリン酸化が誘導されることを観察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の検討において、乳癌の臨床検体、細胞株を用いた検討により①YB-1発現に細胞間及びサブタイプ間に大きな違いは見られなかったが、TNBC細胞株及び臨床検体においてリン酸化YB-1発現が他のサブタイプに比べ有意に高いことを明らかにした。②さらに、TNBC細胞株においてERK/RSKシグナルが亢進していること、③YB-1リン酸化が亢進しているTNBC細胞株において抗腫瘍免疫抑制因子であるPD-L1発現が亢進していることを明らかにした。 また、TNBCの治療薬であるパクリタキセルの短時間処理によりTNBC細胞株においてYB-1のリン酸化とともにYB-1のリン酸化に関与するERK/RSKシグナルのリン酸化が誘導されることを観察している。 これらの結果は当初の計画通りの順調な進展を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討により、TNBCにおいて、乳癌の予後不良因子であるYB-1の活性化にERK/RSKシグナルが関与していることが示唆された。また、YB-1はPgP/ABCB1/MDR1の転写因子であること、また、リン酸化したYB-1は核内に移行することから、核内へと移行したYB-1が薬剤耐性に関与する因子やPD-L1等の発現を制御していると考えられる。 今後、YB-1リン酸化阻害薬及びYB-1発現抑制系を駆使し、YB-1活性化阻害時及びYB-1発現抑制時のパクリタキセルの感受性、増殖能の検討を進める。同時に、TNBC細胞株を用いたマウス治療実験系を進め、TNBCにおけるリン酸化YB-1の治療標的としての有用性を明らかにしていく。
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