研究課題/領域番号 |
20J00393
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
柴田 智博 信州大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 乳癌 / TNBC / YB-1 |
研究実績の概要 |
トリプルネガティブ乳癌(TNBC)患者における抗がん剤治療後の再発巣において乳癌のオンコプロテインであるYB-1の核内発現の亢進が観察されている。さらに、正常乳腺上皮細胞を用いた検討からYB-1がTNBCの発症に関わることも報告されている。前年度までに、The Cancer Genome Atlas (TCGA)データベースを駆使した検討により、YB-1発現は乳癌のサブタイプ間で差は認められなかったが、リン酸化YB-1発現は乳癌の他のサブタイプに比べTNBCにおいて、発現が高いことを観察している。さらに、乳癌細胞株15株におけるリン酸化YB-1発現を比較検討したところ、リン酸化YB-1発現がTNBC細胞株において有意に亢進していることが観察された。 今年度はリン酸化YB-1のTNBCにおける治療標的としての有用性を明らかにするためin vitro及びin vivoにおいて検討を行ったところ、以下について明らかにすることができた。 1.TNBC細胞株を用いた検討により、YB-1リン酸化シグナル標的薬はリン酸化YB-1発現及び細胞増殖を抑制し、YB-1の標的因子である細胞周期関連因子(Cyclin B/D/E)及び薬剤耐性関連因子(MDR1)の発現を抑制した。 2.TNBC細胞のマウス同所移植モデルを用いた検討により、YB-1リン酸化シグナル標的薬により腫瘍体積及び腫瘍重量が有意に抑制された。さらに、治療実験後の腫瘍を回収しウエスタンブロット法及び免疫染色法により検討を行った結果、YB-1リン酸化シグナル標的薬によりYB-1リン酸化に関わるERK/RSKシグナルの減弱とともに、リン酸化YB-1発現の著明な低下が観察された。 今年度のマウス治療実験において、リン酸化YB-1標的薬がin vivoにおいても有用であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TNBCの発症や予後にYB-1が関与することが示唆されるがYB-1の発現上昇や活性化メカニズム、YB-1の治療標的としての有用性は明らかにされてこなかった。 前年度までの検討により、細胞株を用いた検討ではTNBC細胞株においてリン酸化YB-1はTNBC細胞株の増殖に重要であること、さらに、耐性関連遺伝子や増殖関連遺伝子の発現を制御しうることを観察してきた。しかし、リン酸化YB-1標的薬が増殖関連遺伝子や薬剤耐性関連遺伝子の発現を制御するか否か明らかではなかった。さらに、動物治療実験における抗腫瘍効果は明らかではなかった。本年度の細胞株を用いた検討及び動物治療実験により、①TNBC細胞株及び薬剤耐性細胞株において、YB-1リン酸化シグナル標的薬はリン酸化YB-1発現及び細胞増殖を抑制し、YB-1の標的因子である細胞周期関連因子及び薬剤耐性関連因子の発現を抑制した。②TNBC細胞のマウス同所移植モデルを用いた検討により、YB-1リン酸化シグナル標的薬により腫瘍体積及び腫瘍重量が有意に抑制された。さらに、YB-1リン酸化シグナル標的薬により腫瘍内の ERK/RSKシグナルの減弱とともに、リン酸化YB-1発現の著明な低下を観察した。これらの結果は当初の計画通りマウスモデルにおいてリン酸化YB-1の治療標的としての有用性を示す結果であり、順調な進展を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、米国Cedars-Sinai Medical Centerにて研究を行っており、今後バイオバンクの臨床検体を用い、抗がん剤に対する感受性の腫瘍と耐性を示す腫瘍内のタンパク発現、mRNA発現及びmiRNA発現をマイクロアレイ解析により比較検討する。その結果、リン酸化YB-1を中心としたTNBCの進展に関与する因子に関し網羅的に解析を進めることで、TNBCの進展メカニズムを臨床面からより詳細に明らかにしていく。 また、本年度検討を行えていないYB-1活性化阻害時及びYB-1発現抑制時のパクリタキセル感受性の検討を進める。さらに、YB-1恒常活性化体を用いた検討により、パクリタキセル感受性及び増殖能、YB-1標的因子の発現について検討を進める。
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