本研究課題では、主に過去1億3000万年間をターゲットとして長周期地球磁場変動を明らかにすることを目標に、深成岩から分離したケイ酸塩鉱物単結晶を用いた古地磁気強度推定を行っている。今年度は、離溶マグネタイトを主要な磁気キャリアとする斜長石粒子の古地磁気強度測定の際に問題となる、大きな磁気異方性の影響を軽減するための手法開発とその検証を行った。試料には、岩石磁気測定の結果から古地磁気記録媒体として優れた特性をもつことが分かっている道志ハンレイ岩(山梨県、500万年前)から分離した斜長石粒子を用いた。まず、交流消磁および非履歴性残留磁化の着磁を行うコイル内で試料の姿勢を自由に制御することができるホルダーを設計し、3Dプリンターにより作成した。このホルダーを用い、自然残留磁化の段階交流消磁を行った後の試料に対して試料の向きを変えて9方向に非履歴性残留磁化(ARM)を着磁し、残留磁化テンソルを決定した。異方性の強い試料において方位による残留磁化獲得効率の違いがもたらす古地磁気強度推定値への影響を軽減するためには、実験室で印加する磁場を、NRMを獲得した際の外部磁場(地球磁場)と同じ方位に設定すればよい。そこで、NRMの段階消磁から得られる方位と残留磁化テンソルを用いてNRM獲得時の外部磁場方位を逆算し、古地磁気強度測定において実験室内で外部磁場を印加する方向を決定した。綱川‐ショー法による古地磁気強度測定を実施したところ、57 %の試料が古地磁気強度測定の基準に合格した。同程度の異方性を示す試料で着磁方位のコントロールを行わなかった場合と比べ、試料間の古地磁気強度推定値のばらつきは小さく、本手法により異方性の影響を軽減することができたと考えられる。
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