年次計画1年目の「強重力場における自己重力効果と重力反作用効果」の研究に取り組んだ.BSW効果に代表される強重力場における粒子衝突では,その衝突重心系エネルギーが任意に大きくなれることが知られている.このBSW効果に関して,衝突物体の自己重力効果が重心系エネルギーに与える影響を調べることを目的とし,5次元回転ブラックホール時空であるMyers-Perry時空におけるシェル衝突の解析を行った.一般に,回転ブラックホールを背景時空とした場合,対称性の低さからシェルの運動方程式を導出するのは困難であったが,私が以前3次元回転ブラックホールを背景時空とした解析を応用し,角運動量をもつシェルの運動方程式を5次元時空で導出した.この運動方程式には自然に自己重力効果が含まれているので,現在重心系エネルギーへの影響を解析中であり,近く論文としてまとめ発表予定である. さらに,年次計画2年目の「衝突 Penrose 過程とその応用,観測可能性」の研究にも着手した.まず観測可能性を調べるため,Kerrブラックホール近傍からの光の脱出確率の解析を行った.私が以前開発したKerr時空の赤道面内に限定した脱出確率の定式化を発展させ,光源がKerrブラックホールの非赤道面にある場合も含め,光が脱出可能な2次元パラメータ領域を解析的に完全に決定し,可視化する手続きを開発した.脱出確率の振る舞いが定性的に変化する臨界角が存在し,この角度が高エネルギー粒子衝突の特徴的な角度と関連していることを指摘した.
|