2019年にM87中心のブラックホール候補天体がつくるシャドウが初観測された.この天体は高速回転している可能性が指摘されており,本研究対象である強重力場を作る回転ブラックホールが有力候補である.中心天体がブラックホールであるか否かを決定するためには,ブラックホールを特徴付ける事象の地平面近傍からの情報を得られる観測可能量を見いださなければならない.そこで本研究では,先述のブラックホールシャドウに関連する,事象の地平面近傍からの脱出確率に関する考察を進めている. 年次計画2年目の「衝突Penrose過程とその応用,観測可能性」の研究に取り組んだ.観測可能性を調べるために,私が以前開発したKerr時空の赤道面から放射された光の脱出確率の解析を発展させ,(i) 宇宙物理学的に重要となる最内安定円軌道(ISCO)から落下していく光源,(ii) 光源の非赤道面への拡張,の2通りの解析を行った. まず(i)に関しては,落下軌道にある光源の固有運動が脱出確率に与える影響を議論した.ISCOから落下し始めた初期段階では回転方向の固有運動が卓越し,任意のブラックホールスピンにおいて50%を超える脱出確率を示した.さらにドップラー効果(外向きの相対論的ビーミング)によって,光源の運動方向に放射された光は遠方で青方偏移することが明らかになった. (ii)では,臨界Kerrブラックホール時空において,非赤道面も許した任意の時空点から放射された光が遠方まで到達可能な必要十分条件を解析的に完全に決定し,光の軌道を決める2次元パラメータ領域上に可視化する手続きを開発した.脱出可能領域が定性的に変化する臨界角が存在し,この角度は高エネルギー粒子衝突の特徴的な角度と関連していることを指摘した.
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